欠席裁判
読み方:けっせきさいばん
「欠席裁判」の意味
被告人が欠席したまま行う裁判のことです。
また、そこから転じて、本人がいない場でその人に関することを決めたり、その人を批判したりすることをいいます。
比喩として使う場合は、本人に意見や反論の機会を与えず、一方的に話を進めることを非難する含みがあります。
「欠席裁判」の語源・由来
「欠席裁判」は、中国古典の故事から生まれた表現ではなく、もとは裁判に関する言葉です。
近代日本の刑事手続法制が整えられた明治初期には、すでに被告人が出廷しない場合の裁判が制度上の問題として扱われていました。
1870年代後半に作られた『治罪法草案』にも、欠席裁判に関する一連の規定が置かれていたことが研究で明らかにされています。
法律上の意味から、裁判所ではない会議や話し合いについても、本人がいないままその人に関する判断を下すことを裁判になぞらえて「欠席裁判」と呼ぶようになりました。
少なくとも1946年には、この比喩的な用法が文献に現れています。
なお、現在の刑事訴訟法では、原則として被告人が出頭しなければ開廷できませんが、一定の事件や条件では被告人の出頭を必要としない例外も定められています。
「欠席裁判」の使い方
次のような型がよく使われます。
- 「欠席裁判で〜を決める」
本人がいないまま役割や方針などを決定するときに使います。「欠席裁判で担当を決める」「欠席裁判で会長を決める」などの形です。 - 「欠席裁判になる」
本人が参加しないまま、その人について話が進む状況に使います。「話し合いが欠席裁判になる」などと続けます。 - 「欠席裁判同然の〜」
本人が意見を述べられない一方的な扱いについて使います。「欠席裁判同然の扱い」「欠席裁判同然の決め方」などの形です。
「欠席裁判」の例文
- 本人に確認もしないまま役割を押しつけるのは、欠席裁判ではないか。
- 会議を休んだ同僚が、欠席裁判で次の行事の責任者に選ばれていた。
- 反論できない人ばかりを責める議論は、欠席裁判同然のやり方だ。
「欠席裁判」の類似表現
欠席判決(けっせきはんけつ)
旧民事訴訟法で、当事者の一方が口頭弁論の期日に出席しなかった場合に、その欠席を前提として行われた判決をいいます。
「欠席裁判」が日常的な比喩にも使われるのに対し、「欠席判決」は主として法律上の用語です。
「欠席裁判」の古い用例
末広鉄腸の政治小説『花間鶯』(1887~1888年)には、
「武田は闕席裁判で五年の軽禁錮」
とあります。
「欠席」ではなく「闕席」と表記され、実際の裁判について用いられています。
日本語では明治20年代初めまでに、法律上の意味で「けっせきさいばん」という語が使われていたことが分かります。
『法律新聞』第2号に収録された明治32年(1899)の約束手形金請求控訴事件では、当事者の欠席について
「欠席裁判を求む」
と記されています。
この例では、現在と同じ「欠席裁判」の表記が民事訴訟の場で使われています。
和田信賢『放送ばなし』(1946年)には、
「欠席裁判とはけしからん」
という用例があります。
ここでは裁判そのものではなく、本人がいない間に事柄を決められたことへの不満を示す言葉として使われています。
参考文献・出典
- 新村出編『広辞苑』第七版、岩波書店、2018年。
- 飯間浩明編『小学館 四字熟語を知る辞典』小学館、2018年、「欠席裁判」項。
- 小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005~2006年、「欠席裁判」項。
- 綾部二郎「治罪法草案から見た治罪法制定過程」九州大学、2014年。
- 末広鉄腸『花間鶯』1887~1888年。
- 『法律新聞』第2号。
- 和田信賢『放送ばなし』青山商店出版部、1946年。
- 『刑事訴訟法』昭和23年法律第131号。
