読み方:したをまく

「舌を巻く」の意味

あまりにも優れていることに強く驚き、感嘆することです。

技術、能力、知識、出来栄えなどが予想を超えており、言葉が出ないほど感心したときに使います。

単なる驚きよりも、相手や物事を高く評価する気持ちを伴うのが特徴です。

評価する対象は、必ずしも好ましい性質に限らず、相手のしたたかさや手ごわさなどについて、その並外れた程度に圧倒された場合にも使えます。

「舌を巻く」の語源・由来

「舌を巻く」の背景には、中国古典に見える「卷舌」という表現があります。

前漢の揚雄が著した「解嘲」には「欲談者卷舌而同聲」とあり、「卷舌」は口を閉ざして話さないことを意味しました。

日本語でも古くは、相手に言いこめられたり威圧されたりして沈黙する意味で「舌を巻く」が使われています。

その後、驚きや恐れ、感嘆のために言葉も出ない状態にも用いられるようになり、現代では特に、優れたものを前にして驚き感心する意味が中心になっています。

「舌を巻く」の使い方

現代語では、驚きや感嘆の原因を助詞「に」で示す形が特によく使われます。実際に使われている大量の日本語データを調べたところ、「名詞句+に舌を巻く」は「舌を巻く」の用例の5割弱を占めています。

次のような型がよく使われます。

  • 「〜に舌を巻く」
    「〜」には、感嘆の原因となる能力、技術、強さ、巧みさなどを置きます。「彼の記憶力に舌を巻く」「職人の手際に舌を巻いた」などの形です。
  • 「〜には舌を巻く」
    助詞「は」を加えると、その能力や特徴を取り立てて述べる形になります。「彼女の集中力には舌を巻く」「その完成度には舌を巻いた」などと使います。
  • 「舌を巻くほど(の)〜」
    驚くほど程度が高いことを表し、後ろの形容詞や名詞につなげます。「舌を巻くほど巧みだ」「舌を巻くほどの腕前」のような形です。
  • 「〜と舌を巻く」
    「と」の前に、驚いた人の発言や心の中の言葉を置きます。「『見事だ』と舌を巻く」「『とてもかなわない』と舌を巻いた」などと使います。この引用の形も、実際の文章で一定数見られる用法です。

「舌を巻く」の例文

  • 小学生とは思えないほど難しい曲を堂々と弾きこなす姿に、会場の大人たちは舌を巻いた
  • 新人が短期間で複雑なシステムの仕組みを理解したため、長年働いている技術者でさえ、その吸収の速さには舌を巻いている
  • 相手チームの監督は試合後、「あれほど正確に守備を連係させるとは」と、選手たちの完成度に舌を巻いた

「舌を巻く」の類似表現

脱帽する(だつぼうする)

「脱帽する」は、相手に敬意を示し、感服することを表します。

「舌を巻く」が予想以上の能力などに対する強い驚きを含むのに対し、「脱帽する」は相手の実力を認めて敬意を示す気持ちや、「かなわない」と認める響きが前に出ます。

目を見張る(めをみはる)

「目を見張る」は、驚いたり感心したりして目を大きく見開くことです。

優れたものへの感嘆にも使えますが、怒りなどによって目を見開く場合にも使えるため、「舌を巻く」より意味の範囲が広くなっています。

「舌を巻く」の古い用例

921年の『延喜廿一年京極御息所褒子歌合』には、「忠房したをまき頭をたれて」という記述があります。

ここでは、相手に言いこめられたり威圧されたりして、言葉を返せなくなる意味で使われていて、現在の「優れたものに感嘆する」という使われ方より古い意味を示す例です。

1223年ごろの『海道記』には「前非舌をまく」とあり、閻王の裁きを恐れる文脈で、驚きや恐れによって言葉も出ない状態を表しています。

この時代には、「沈黙する」だけでなく、強い心理的な動揺と結びついた使われ方がされています。

「舌を巻く」の間違いやすい使い方・表記

現代の「舌を巻く」は、単にびっくりしたというだけの場面にはあまり適しません。

「突然の地震に舌を巻いた」「事故の知らせに舌を巻いた」など、感嘆する対象がない場合は、「驚いた」「言葉を失った」などのほうがしっくりきます。

なお、「巻き舌」は、舌先を動かして特徴的な発音をすることを指す別の表現なので、「舌を巻く」という慣用句の意味とは区別して使います。

辞書には「舌を巻く」に巻き舌で発音する古い使われ方も記録されていますが、現代の慣用的な使い方とは区別して考える方が分かりやすいでしょう。

参考文献・出典

  • 新村出編『広辞苑』第七版、岩波書店、2018年。
  • 米川明彦・大谷伊都子編『日本語慣用句辞典』東京堂出版、2005年、「舌を巻く」項。
  • 小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005~2006年、「舌を巻く」項。
  • 石田プリシラ「日本語コーパスに見られる慣用句の用法」『Lingua』第9巻第1号(総号329号)、研究社、2022年。
  • 蕭統編『文選』所収、揚雄「解嘲」。
  • 中華民国教育部『重編國語辭典修訂本』「卷舌」項。
ABOUT ME
北澤篤史
ことわざ学会理事。ことわざ・慣用句・故事成語・四字熟語・漢字熟語を対象に、語源・由来、古い用例、文献上の変遷を研究している。2025年度ことわざ研究奨励賞受賞。著書に『〈試験に出る〉マンガでわかる すごいことわざ図鑑』『〈試験に出る〉マンガでわかる おもしろい四字熟語図鑑』『マンガでわかる 漢字熟語の使い分け図鑑』(いずれも講談社)がある。