舌の根の乾かぬうち
読み方:したのねのかわかぬうち
「舌の根の乾かぬうち」の意味
言葉を言い終わって間もないうちに、前に言ったことと反する発言や行動をすることを非難していう表現です。
単に「すぐあと」という時間の短さを示すだけではなく、約束を破る、前言を翻す、言ったことと反対の行動を取るなど、一貫しない言動をとがめる気持ちを伴うのが一般的です。
「舌の根の乾かぬうち」の語源・由来
発言してからほとんど時間がたっていないことを、言葉を発した「舌」がまだ乾く暇もないほど短い時間になぞらえた言い回しです。
文献上は、現在の使われ方より前に「舌も乾かぬ所」など「舌」だけを使った表現があり、のちには「舌の根もひかぬうち」のように「舌の根」を含む言い方も現れています。
「舌」から「舌の根」を用いる言い方へ、どのような経緯で定着したのかは断定できませんが、現在の言い方になるまでに複数の言い回しが使われていました。
「舌の根の乾かぬうち」の使い方
現代では「うち」の後ろに助詞「に」を付け、副詞的に使う形がよく見られます。
- 「舌の根の乾かぬうちに〜」
直前の発言と食い違う行動や発言を後ろに続けます。「舌の根の乾かぬうちに前言を翻す」「舌の根の乾かぬうちに約束を破る」などの形です。 - 「〜と言った舌の根の乾かぬうちに〜」
どの発言に反しているのかを前に示す形です。「二度と遅刻しないと言った舌の根の乾かぬうちに、また寝坊する」「禁煙すると言った舌の根の乾かぬうちに、たばこを吸う」などと使います。 - 「〜した、その舌の根の乾かぬうちに〜」
「その」を入れて、直前の発言との近さや食い違いを際立たせることもできます。「反省を口にした、その舌の根の乾かぬうちに言い訳する」「謝罪した、その舌の根の乾かぬうちに責任を転嫁する」などの形です。
「舌の根の乾かぬうち」の例文
- 彼は「もう人のせいにはしない」と約束した舌の根の乾かぬうちに、失敗の責任を同僚に押し付けた。
- 市長は計画を変更しないと明言した。ところが、舌の根の乾かぬうちに方針を撤回し、市民から批判を浴びた。
- 弟は母に「宿題が終わるまでゲームはしない」と言った舌の根の乾かぬうちに、コントローラーを手に取った。
「舌の根の乾かぬうち」の類似表現
言うそばから(いうそばから)
何かを言った直後に、その言葉に反することが起きる場合に使います。
「注意したそばから同じ失敗をする」のように、話を聞いた相手がすぐ同じことをする場合にも使える点が「舌の根の乾かぬうち」と異なります。
「舌の根の乾かぬうち」は、本人が自分の前言に反する言動を取ったことへの非難に特に向いています。
前言を翻す(ぜんげんをひるがえす)
それまで述べていた意見や約束などを変えることをいいます。
発言からどれほど時間がたったかは問わないため、「数か月後に前言を翻した」とも言えます。
「舌の根の乾かぬうち」は、前言と反するまでの時間が非常に短いことまで含んでいます。
「舌の根の乾かぬうち」の古い用例
1766年出版の上田秋成『諸道聴耳世間猿』には、同じ意味を持つ「舌も乾かぬ所」という言い方が見られます。
現在使われている「舌の根の乾かぬうち」よりも早い時期に、「舌」を使って発言直後を表す言い回しが存在していました。
19世紀中ごろの人情本『清談若緑』には、「その舌の根もひかぬうち」という言い回しがあります。
ここでの「ひかぬ」は「乾かない」という意味で、「舌の根」を含む現在に近い言い方が幕末には使われていたことが分かります。
1875年(明治8年)の河竹黙阿弥作『扇音々大岡政談(天一坊)』四幕には、「持つべきものは家来なりとお褒めなされし其舌の乾かぬうちに打って替り」という記述があります。
この記述では「舌の根」ではなく「舌の乾かぬうち」という言い回しですが、前の発言から間を置かず態度が変わることを表しており、現在の使われ方とよく重なります。
「舌の根の乾かぬうち」の間違いやすい使い方・表記
「舌の根」を「舌の先」として、「舌の先の乾かぬうちに」と言うことがありますが、「舌の根の乾かぬうちに」が本来の言い方とされています。
文化庁の平成30年度「国語に関する世論調査」では、「舌の根の乾かぬうちに」を使うと答えた人が60.4%、「舌の先の乾かぬうちに」を使うと答えた人が24.4%でした。
なお、「舌の根も乾かぬうち」という言い方も実際に用いられており、辞典などにも掲載されています。
「舌の先」とする形とは区別する必要があります。
参考文献・出典
- 新村出編『広辞苑』第七版、岩波書店、2018年。
- 米川明彦・大谷伊都子編『日本語慣用句辞典』東京堂出版、2005年、「舌の根の乾かぬうち」項。
- 小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005~2006年、「舌の根の乾かぬ内」項。
- 文化庁『平成30年度「国語に関する世論調査」の結果の概要』2019年。
- 神永曉「第212回『舌の○の乾かぬうちに』」『日本語、どうでしょう?』2014年5月26日。
