探りを入れる
読み方:さぐりをいれる
「探りを入れる」の意味
相手の意向や事情、秘密などを、直接問いたださずにそれとなく調べることです。
何気ない質問をしたり、相手の反応を見たりしながら、知りたい情報を得ようとする場合に用います。
相手に調べていることを悟られないようにする含みがあり、慎重に様子を見る場面のほか、相手の秘密や本心を知ろうとする駆け引きにも使われます。
「探りを入れる」の使い方
次のような型がよく使われます。
- 「〜に探りを入れる」
「〜」には、事情や意向を知りたい相手や組織が入ります。「先方に探りを入れる」「担当者に探りを入れる」などの形です。 - 「〜について探りを入れる」
知りたい事柄や話題を「について」で示します。「異動の予定について探りを入れる」「新商品の発売時期について探りを入れる」などと使います。 - 「〜かどうか探りを入れる」
真偽や相手の意向など、確かめたい内容を前に置く形です。「彼が参加するかどうか探りを入れる」「相手が何を知っているか探りを入れる」と続けます。 - 「〜から/〜に探りを入れられる」
受け身にすると、自分の事情や考えを相手からそれとなく調べられることを表せます。「同僚から探りを入れられる」「上司に探りを入れられた」などと使います。
「探りを入れる」の例文
- 取引先が条件変更を受け入れそうか、担当者にそれとなく探りを入れたが、はっきりした返事は得られませんでした。
- 姉は父が誕生日に何を欲しがっているのか、雑談をしながら探りを入れてみました。
- 新しい計画の内容を知りたいらしく、会議が終わってから何人もの同僚に探りを入れられました。
「探りを入れる」の類似表現
鎌を掛ける(かまをかける)
「鎌を掛ける」は、相手が本当のことをうっかり話すよう、言葉巧みに誘導して問いかけることで、質問の仕方に工夫や策略があることが特徴です。
「探りを入れる」は質問だけに限らず、会話や反応を通じて事情や意向を調べる場合にも使えるため、「鎌を掛ける」より対象や方法の幅があります。
腹を探る(はらをさぐる)
「腹を探る」は、相手の意中や本心をそれとなく知ろうとする表現です。
「探りを入れる」は本心だけでなく、予定、事情、秘密、知っている情報なども対象にでき、「相手の本当の考え」を知りたい場面では、両者の使い方が重なります。
「探りを入れる」の「探り」の意味
「探り」は、動詞「探る」が変化して名詞になった言葉で、「さぐること」「様子をうかがうこと」を指します。
これとは別に、傷や腫れ物などの深さを調べるために用いる消息子やゾンデと呼ばれる医療器具を、「探り」と呼ぶ使い方もあります。
この医療上の意味は、古い文学作品に見られる「探りを入れる」を読む際に重要です。
「探りを入れる」の古い用例
夏目漱石の『明暗』は、1916年(大正5年)に『朝日新聞』で連載された作品です。
その冒頭は、「医者は探りを入れた後で、手術台の上から津田を下した。」と始まります。
ここでは医者が患者の患部の奥行きを調べており、相手の本心や事情を聞き出すという現代の慣用的な意味ではありません。
「探り」を患部に入れて調べる、医療上の具体的な使い方です。
芥川龍之介の『或敵打の話』は、1920年(大正9年)に『雄弁』へ発表されました。
作中には、敵と思われる人物について調べる場面で、「いろいろ探りを入れて見たが」という表現が使われています。
こちらは人の素性をそれとなく調べる意味で、現代の慣用的な「探りを入れる」に近い使い方です。
少なくとも1920年には、この比喩的な使い方が文学作品に見受けられます。
参考文献・出典
- 新村出編『広辞苑』第七版、岩波書店、2018年。
- 米川明彦・大谷伊都子編『日本語慣用句辞典』東京堂出版、2005年、「探りを入れる」項。
- 小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005~2006年、「探り」項。
- 夏目漱石『明暗』、青空文庫(底本『夏目漱石全集9』ちくま文庫、筑摩書房、1988年)。初出『朝日新聞』1916年5月26日~12月14日。
- 芥川龍之介『或敵打の話』、青空文庫(底本『芥川龍之介全集3』ちくま文庫、筑摩書房、1986年)。初出『雄弁』1920年5月。
