論を俟たない
読み方:ろんをまたない
「論を俟たない」の意味
論じるまでもなく明らかである、当然であるという意味です。
疑う余地がないと考えられる事柄について、その確かさを示すやや硬い表現です。
「論を俟たない」の語源・由来
「論」は、ここでは議論したり論じたりすることを指します。
「俟つ」には「待つ」のほか、頼りにする、必要とするという意味があります。
特に「〜をまたない」という形では、「〜する必要がない」という意味になります。
そのため、「論を俟たない」は「論じることを必要としない」という成り立ちの表現です。
「論を俟たない」の使い方
次のような型がよく使われます。
- 「〜ことは論を俟たない」
「〜こと」に、当然だと考える事柄を置く形です。「安全が最優先であることは論を俟たない」「十分な準備が必要なことは論を俟たない」などと使います。 - 「〜のは論を俟たない」
動詞や節を「の」で受け、その内容が明らかであることを述べます。「経験が役立ったのは論を俟たない」「改革が必要なのは論を俟たない」などの形です。
「論を俟たない」の例文
- 新しい制度を導入する前に、十分な安全対策が必要であることは論を俟たない。
- 守備の安定が、チームの優勝に大きく貢献したのは論を俟たない。
- 子どもの個人情報を慎重に扱う責任が学校にもあることは論を俟たないが、具体的な管理方法については検討の余地がある。
「論を俟たない」の類似表現
言を俟たない(げんをまたない)
「論を俟たない」と使われ方がよく重なります。
「言」は言葉や発言を指すため、改めて口にする必要もないほど明らかだという言い方です。
「論を俟たない」は「論じる必要がない」、「言を俟たない」は「言う必要がない」という表現の違いがあります。
言うまでもない(いうまでもない)
多くの場面で言い換えられます。
「言うまでもない」は日常の会話でも広く使えるのに対し、「論を俟たない」は文章や改まった発言にしっくりくる表現です。
「論を俟たない」の古い用例
『精選版 日本国語大辞典』では、江戸時代の随筆『蘐園雑話』(1751~1772年頃)の「人各有所見は論をまたず」が早い用例として挙げられています。
「またない」ではなく、古い打消しの形である「またず」が使われています。
明治時代にも「論を俟たず」の言い方が見られます。
正岡子規『従軍紀事』には「これを争ふことの不利なるは論を俟たず」とあり、1896年に発表された文章でも同じ表現が使われています。
参考文献・出典
- 新村出編『広辞苑』第七版、岩波書店、2018年。
- 米川明彦・大谷伊都子編『日本語慣用句辞典』東京堂出版、2005年、「論を俟たない」項。
- 小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005~2006年、「論を俟たぬ」項。
- 正岡子規『従軍紀事』。
