虫が好かない
読み方:むしがすかない
「虫が好かない」の意味
人や物事に対して、はっきりした理由はないものの、なんとなく好感が持てず、好きになれないことです。
相手に明確な欠点があるから嫌うというより、自分でも理由をうまく説明できない感覚的な好き嫌いを表すのが特徴です。
必ずしも強い憎しみを意味するわけではありません。
「虫が好かない」の語源・由来
ここでいう「虫」は、昆虫そのものではありません。
昔は、人の体内に「虫」がいて、意識や感情の動きに影響を与えると考えられていました。
「腹の虫」「虫の居所が悪い」「虫が知らせる」などにも、この意味の「虫」が残っています。
こうした「虫」の観念には、中国の道教に見られる三尸(さんし)の説や、日本に伝わった庚申信仰とのつながりが指摘されています。
江戸時代には体内の虫と人の感情を結び付ける考え方が広まり、「虫」に関する慣用表現も17~18世紀に多く現れるようになりました。
「虫が好かない」は、自分自身が理屈で嫌っているというより、体内の「虫」が相手を好まないという発想から生まれた表現と考えられています。
「虫が好かない」の使い方
次のような型がよく使われます。
- 「〜は虫が好かない」
好きになれない人や物事を「〜」に置きます。「あの人は虫が好かない」「堅苦しい集まりは虫が好かない」などの形です。 - 「どうも/なぜか虫が好かない」
嫌う理由をはっきり説明できないことを示す「どうも」「なぜか」とよく結び付きます。「どうも虫が好かない」「なぜか虫が好かない」のように使います。 - 「虫が好かない+名詞」
後ろに「人」「相手」「タイプ」などを続け、嫌悪感を抱く対象を表します。「虫が好かない相手」「虫が好かないタイプ」などの形です。 - 「虫が好かなかった/虫が好かぬ」
過去について述べる場合は「虫が好かなかった」とします。「初めから虫が好かなかった」などと使います。「虫が好かぬ」は「虫が好かない」と同じ意味で、やや古風な響きのある形です。
「虫が好かない」の例文
- 彼は礼儀正しく仕事もできるのに、なぜか虫が好かない。
- その店に特別な欠点があるわけではないが、どうにも虫が好かなくて、次からは別の店を選んだ。
- 接客の仕事では、虫が好かない相手であっても態度に出さないよう心掛けている。
「虫が好かない」の類似表現
気に食わない(きにくわない)
「気に食わない」は、自分の好みや考えに合わず、不満や反感を抱く場合に広く使えます。
「あの態度が気に食わない」のように、嫌う理由や対象となる点が明確な場合にも使えるところが「虫が好かない」と異なります。
いけ好かない(いけすかない)
「いけ好かない」は「どうにも好きになれない」という意味で、「虫が好かない」と重なる場面の多い表現です。
ただし、相手の人柄や態度を嫌う場合に使われやすく、「いけ好かない奴」のように言うと、よりくだけた調子で強い反感が表れます。
「虫が好かない」の古い用例
浄瑠璃『河内国姥火』(1720年頃か)二には、「能囃子は虫が好かず」という記述が見られます。
「虫が好かない」の古い言い方である「虫が好かず」が使われており、人ではなく能囃子を好まないことを述べています。
18世紀初めには、人物だけでなく物事への好き嫌いにも用いられていました。
これより早い1692年の浮世草子『好色由来揃』には、同じ意味を持つ「虫が嫌う」の言い回しがあります。
「身どもらが虫がきらふに」という言い回しが使われており、「虫」を主体として感覚的な嫌悪を表す使われ方が17世紀末には見られます。
参考文献・出典
- 新村出編『広辞苑』第七版、岩波書店、2018年。
- 米川明彦・大谷伊都子編『日本語慣用句辞典』東京堂出版、2005年、「虫が好かない」項。
- 小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005~2006年、「虫が好かない」「虫が嫌う」項。
- 小学館『日本大百科全書(ニッポニカ)』「虫」項。
- 飯間浩明「『虫が好かない』」『考える人』新潮社、2016年7月5日。
