虫が知らせる
読み方:むしがしらせる
「虫が知らせる」の意味
はっきりした理由や根拠はないのに、何かが起こりそうだと前もって感じることです。
特に、事故や別れ、身近な人の異変など、よくない出来事への予感について使われることが多い表現です。
「虫が知らせる」の語源・由来
ここでいう「虫」は、昆虫そのものではありません。
古くは、人の体内に「虫」がいて、身体の状態だけでなく意識や感情にも影響を及ぼすと考えられていました。
「腹の虫が治まらない」「虫の居所が悪い」などに現れる「虫」も、同じ系統の考え方によるものです。
自分でも理由が説明できない内側からの感覚を、体内の「虫」が何かを知らせているものと捉えたところから「虫が知らせる」という表現が生まれました。
「虫が知らせる」の使い方
次のような型がよく使われます。
- 「虫が知らせたのか、〜」
何かが起きたあと、振り返って「無意識に予感していたのかもしれない」と述べる形です。「虫が知らせたのか、急に母へ電話した」「虫が知らせたのか、いつもの道を避けた」などと使います。 - 「虫が知らせたようだ/虫が知らせたようで〜」
自分や他人が取った行動を、あとから予感によるものだったと捉える形です。「どうやら虫が知らせたようだ」「虫が知らせたようで、直前に引き返した」などと使います。 - 「虫が知らせる」
まだ何も起きていない時点で、説明しにくい予感を感じている場合にも使えます。「今日はどうも虫が知らせる」「何か虫が知らせる気がする」などの形です。
「虫が知らせる」の例文
- 虫が知らせたのか、普段はめったに連絡しない祖父へ電話をすると、ちょうど体調を崩して助けを必要としていた。
- 会議の直前になぜか気になって資料を見直したところ、重要な数字の誤りが見つかった。今思えば、虫が知らせたようだ。
- 彼女は朝から「どうも虫が知らせる」と言って遠出を取りやめたが、その日の午後、目的地へ向かう道路が大雨で通行止めになった。
「虫が知らせる」の類似表現
虫の知らせ(むしのしらせ)
「虫が知らせる」とほぼ同じ内容を名詞で表す言い方です。
「虫の知らせがあった」「虫の知らせで電話をした」のように使います。
「虫が知らせる」が「虫」を主語にした動詞の形であるのに対し、「虫の知らせ」は予感そのものを一つの事柄として扱えます。
胸騒ぎ(むなさわぎ)
不安や心配のために心が落ち着かない感覚を表します。
「虫が知らせる」は、まだ分からない出来事を何となく前もって感じるという性格が強いのに対し、「胸騒ぎ」は必ずしも未来の出来事を予感している必要はありません。
「虫が知らせる」の古い用例
1746年に初演された人形浄瑠璃『菅原伝授手習鑑』の四段目「寺子屋の段」には、「冥途の旅へ寺入りと早や虫が知らせたか」という記述があります。
我が子との別れを振り返る母親の言葉で、起こった不幸を前もって何となく感じ取っていたのではないか、という意味で用いられています。
18世紀半ばには、現在とほぼ同じ「予感」の意味で「虫が知らせる」が使われていたことが分かります。
『精選版 日本国語大辞典』も、この1746年の例を「虫が知らせる」が初めて世に出た例として掲げています。
参考文献・出典
- 新村出編『広辞苑』第七版、岩波書店、2018年。
- 米川明彦・大谷伊都子編『日本語慣用句辞典』東京堂出版、2005年、「虫が知らせる」項。
- 小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005~2006年、「虫が知らせる」項。
- 集英社辞典編集部編『ルーツでなるほど慣用句辞典』集英社、1991年、「虫が知らせる」項。
- 独立行政法人日本芸術文化振興会『人形浄瑠璃 文楽』教育教材「太夫:技を聴く―心情を語る」、『菅原伝授手習鑑』「寺子屋の段」。
