勿怪の幸い
読み方:もっけのさいわい
「勿怪の幸い」の意味
思いがけず得た幸運や、予想していなかった好都合な出来事のことです。
偶然起きたことが自分にとって都合よく働いたときにも使います。
災難がよい結果に変わる場合だけを指す言葉ではなく、最初から不幸な出来事がなくても使えます。
「勿怪の幸い」の語源・由来
「もっけ」は、「もののけ」が変化してできた言葉です。
「もののけ」は霊的なものを指す言葉でしたが、「もっけ」には不思議なことや思いがけないこと、意外なことという意味も生まれました。
「もっけの幸い」は、この「思いがけない・意外な」という意味の「もっけ」に「幸い」が結びついた表現です。
どのような出来事をきっかけにこの組み合わせが成立したのかまでは明らかではありませんが、「もっけ」が先に「意外なこと」の意味で使われていたことは古い用例から分かります。
「勿怪の幸い」の使い方
次のような型がよく使われます。
- 「〜は/〜が勿怪の幸いだ・だった」
思いがけず好都合だった出来事を「〜」に置きます。「急な延期は勿怪の幸いだった」「偶然その場にいたのが勿怪の幸いだった」などの形です。 - 「〜を勿怪の幸いと(して)〜する」
偶然生じた状況を好機として利用するときの形です。「休講を勿怪の幸いとして出かける」「相手の留守を勿怪の幸いと立ち去る」などと使います。 - 「〜を勿怪の幸いに〜する」
「〜を好都合な機会として」という副詞的な形になります。「空き時間を勿怪の幸いに用事を済ませる」「暗がりを勿怪の幸いにその場を離れる」などと続けます。「〜をもっけの幸いに」という形は辞書の用例にも見られます。 - 「勿怪の幸いとばかりに〜する」
思いがけず得た好機を逃さず、すぐ行動する様子を表しやすい形です。「休講を勿怪の幸いとばかりに出かける」などと使います。
「勿怪の幸い」の例文
- 発表直前になって会議が延期され、資料を直す時間ができた。準備不足だった私には勿怪の幸いだった。
- 駅で土地勘のある旧友に出会ったのを勿怪の幸いと、目的地までの道を教えてもらった。
- 子どもたちは雨で練習が中止になったのを勿怪の幸いとばかりに、見たがっていた映画を見に出かけた。
「勿怪の幸い」の類似表現
棚から牡丹餅(たなからぼたもち)
どちらも予期しなかった幸運に使えますが、「棚から牡丹餅」は、自分で特に働きかけていないのに利益や幸運が転がり込んでくるというニュアンスの強い表現です。
「勿怪の幸い」は、偶然生じた状況を好機として自分から利用する場合にも使えます。
不幸中の幸い(ふこうちゅうのさいわい)
「不幸中の幸い」は、災難や不幸そのものは起きているものの、その中に救いとなる点があった場合に使います。
「勿怪の幸い」には、そのような不幸が前提となる必要はなく、単に予定外の出来事が思いがけず好都合だった場合にも使えます。
「勿怪の幸い」の古い用例
「もっけ」という言葉が「思いがけないこと」の意味で使われた例は、室町時代までさかのぼります。
1477年の『史記抄』には「鳴けばもっけで」という言い方の記述が伝わっており、この時期にはすでに「もっけ」が意外なことを指していました。
「もっけの幸い」という表現そのものは、天明5年(1785)出版の黄表紙『莫切自根金生木』に「もっけのさいわい、ものを入れて養生せん」という記述が載っています。
『精選版 日本国語大辞典』では、これを「物怪の幸い」が初めて世に出た作品として掲げており、18世紀後半には、現在とほぼ同じ「思いがけない幸い」の意味で使われていたことが分かります。
「勿怪の幸い」の間違いやすい使い方・表記
「勿怪の幸い」は「物怪の幸い」とも書き、どちらも「もっけのさいわい」と読みます。
国語辞典でも「物怪」「勿怪」の両表記が扱われています。
「もっけ」を「儲け」と結びつけて「儲けの幸い」が変化した言葉と考えることがありますが、国語辞典では「もっけ」を「もののけ」が変化した言葉として扱っています。
参考文献・出典
- 新村出編『広辞苑』第七版、岩波書店、2018年。
- 米川明彦・大谷伊都子編『日本語慣用句辞典』東京堂出版、2005年、「勿怪の幸い」項。
- 小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005~2006年、「物怪」「物怪の幸い」項。
