焼きを入れる
読み方:やきをいれる
「焼きを入れる」の意味
気の緩んだ人を厳しく鍛えて引き締めたり、罰や制裁を加えたりすることを意味します。
相手に強い働きかけをする表現で、制裁の意味では暴力や拷問を指すこともあるため、荒っぽく威圧的な響きを伴うことがあります。
「焼きを入れる」の語源・由来
刀などの鋼を高温に熱し、水や油などで急に冷やして硬くする「焼入れ」に由来します。
刃を硬く鍛えるこの処理を人にたとえ、厳しい刺激や苦しみを与えて鍛える、気持ちを引き締めさせるという意味に広がりました。
そこから、強い制裁を加える意味でも使われるようになっています。
「焼きを入れる」の使い方
次のような型がよく使われます。
- 「人に焼きを入れる」
助詞「に」で、厳しく鍛えたり制裁を加えたりする対象を示します。「後輩に焼きを入れる」「怠けた部員に焼きを入れる」などの形です。 - 「焼きを入れてやる」
「やる」を付けると、相手に厳しい処置を加えるという荒っぽい言い方になります。「一度焼きを入れてやる」「あいつに焼きを入れてやる」などと使います。脅しのように響くこともあるため、日常の仕事や学校では使う場面を選ぶ表現です。 - 「焼きを入れられる」
制裁や厳しい鍛錬を受ける側から述べる受け身の形です。「先輩に焼きを入れられる」「監督から焼きを入れられた」などと使います。
「焼きを入れる」の例文
- 連敗が続いたため、監督は練習メニューを厳しくして選手たちに焼きを入れた。
- 昔の親方は、仕事を怠ける弟子に「今度さぼったら焼きを入れるぞ」と荒っぽく叱ることもありました。
- 乱暴な先輩から焼きを入れられることを恐れた後輩たちは、顧問に相談しました。
「焼きを入れる」の類似表現
活を入れる(かつをいれる)
「活を入れる」は、刺激を与えて元気づけたり、勢いを取り戻させたりする表現です。
「組織に活を入れる」のように人以外にも使えます。
厳しい処置や制裁を含みやすい「焼きを入れる」に比べ、「活を入れる」は元気づけることに重点があり、暴力的な意味を持ちません。
灸を据える(きゅうをすえる)
「灸を据える」は、きつく注意したり罰を加えたりして、相手を懲らしめることをいい、悪い行いを改めさせる場面で使いやすい表現です。
「焼きを入れる」は厳しく鍛える意味にも使われ、制裁の意味では実際の暴力まで指すことがあります。
「灸を据える」は現代では、叱責や罰を比喩的に述べる場合にも広く使われます。
「焼きを入れる」の古い用例
刃物を鍛える本来の使い方は、1888年の『物理学術語和英仏独対訳字書』にすでに見受けられ、この段階では人を懲らしめる意味ではなく、刀などを焼いて鍛える技術的な表現として記録されています。
1929年の小林多喜二『蟹工船』には、「一番働きの少いものに『焼き』を入れることを貼紙した」とあります。
直後には、真っ赤に焼いた鉄棒を身体に当てる処置だったことが記されており、ここでの「焼き」は実際の身体的制裁を指しています。
1948年の大佛次郎『帰郷』には、「少し焼を入れて、他人の苦痛をわかるやうにしてやる」という記述があります。
ここでは、金属を焼き入れする意味ではなく、人に厳しい刺激を与えて考えや態度を改めさせる比喩的な使われ方になっています。
参考文献・出典
- 新村出編『広辞苑』第七版、岩波書店、2018年。
- 米川明彦・大谷伊都子編『日本語慣用句辞典』東京堂出版、2005年、「焼きを入れる」項。
- 小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005~2006年、「焼を入れる」項。
- 集英社辞典編集部編『ルーツでなるほど慣用句辞典』集英社、1991年、「焼きを入れる」項。
- 小林多喜二『蟹工船』戦旗社、1929年。
