焼きが回る
読み方:やきがまわる
「焼きが回る」の意味
年を取るなどして、頭の働きや腕前が衰えることです。
以前なら簡単にできた判断や仕事で失敗したときなどに使われ、自分について言う場合には、自嘲や苦笑を伴うことがあります。
「焼きが回る」の語源・由来
「焼き」は、刃物を硬くして切れ味をよくするための「焼き入れ」に関係する言葉です。
一般には、焼き入れの火加減が行き渡りすぎるとかえって刃物の切れ味が鈍ることから、人の能力が衰えることを「焼きが回る」とたとえるようになったと説明されています。
ただし、語源については別の見方もあります。
江戸時代には「焼きがむねへまわる」のように、焼きが本来とは違う部分へ回る言い回しがされていました。
近世文学研究者の棚橋正博は、こうした「焼きが○○へ回る」という言い回しから「焼きが回る」へ省略され、本来の力を発揮できないという意味になった可能性を指摘しています。
そのため、「火が回りすぎたこと」だけを語源とする説明には検討の余地があります。
「焼きが回る」の使い方
次のような型がよく使われます。
- 「〜も焼きが回った」
自分やある人物について、以前より能力が落ちたと感じたときによく使う形です。「俺も焼きが回った」「名人も焼きが回った」などと使います。 - 「焼きが回ってきた」
衰えが少しずつ現れてきたことを言う形です。「そろそろ焼きが回ってきた」「私も焼きが回ってきた」などと使います。 - 「焼きが回ったのか〜」
それまでなら考えにくかった失敗や判断を見て、衰えを疑う言い方です。「焼きが回ったのか判断を誤る」「焼きが回ったのか勘が鈍い」などと続けます。
「焼きが回る」の例文
- こんな単純な計算を二度も間違えるとは、私も焼きが回ったものだ。
- 長年第一線で活躍してきた職人だが、最近は少し焼きが回ってきたのか、細かな作業に時間がかかるようになった。
- あれほど勘の鋭かった刑事が見え透いたうそを信じるなんて、焼きが回ったのかと同僚は首をかしげた。
「焼きが回る」の類似表現
腕が鈍る(うでがにぶる)
技術や技能が以前ほど発揮できなくなることをいいます。
「焼きが回る」が頭の働きにも使えるのに対し、「腕が鈍る」は仕事、スポーツ、芸事などの技量について使いやすい表現です。
耄碌する(もうろくする)
年を取って心身の働きが衰えることをいう、より直接的な表現です。
「焼きが回る」は失敗した本人が自嘲的に口にすることもありますが、「耄碌する」は相手に向けるとひどく失礼に響くことがあります。
「焼きが回る」の古い用例
江島其磧の『世間娘容気』(1717年)には、料理を得意とする人物について「料理自慢の庖丁の焼がむねへまはり」という趣旨の表現があります。
「焼がむねへまはり」と、焼きが回る先を「むね」と明示している点が現在の形とは異なります。
得意なはずの料理で失敗するという文脈で使われており、18世紀初めには能力を十分に発揮できないことと結びついた表現が使われていました。
山東京伝の黄表紙『奇事中洲話』(1789年)では、閻魔大王について「だんだん焼きが回り給ひければ」とあります。
以前ほど権威や力を発揮できなくなった閻魔大王が隠居する場面で、現在とほぼ同じ「焼きが回る」という言い回しが、人の衰えを表すたとえとして使われています。
「焼きが回る」の間違いやすい使い方・表記
「焼きを入れる」とは意味が異なります。
「焼きを入れる」は、気持ちを引き締めさせたり、厳しく鍛え直したりすることをいう表現で、「焼きが回る」のような能力の衰えは表しません。
また、「焼きが回った」は相手の能力が衰えたと評する言葉でもあるため、他人、とくに目上の人へ直接使うと失礼になることがあります。
参考文献・出典
- 新村出編『広辞苑』第七版、岩波書店、2018年。
- 米川明彦・大谷伊都子編『日本語慣用句辞典』東京堂出版、2005年、「焼きが回る」項。
- 小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005~2006年、「焼が回る」項。
- 棚橋正博「第116回 焼きがまわる」小学館「ことばのまど」。
