峠を越す
読み方:とうげをこす
「峠を越す」の意味
物事の勢いが最も盛んな時期や、危険・困難が最も厳しい時期を過ぎることです。
暑さや寒さ、病状、混乱などについて、そのピークが過ぎたことを表す場合にも使います。
「峠を越す」の語源・由来
「峠」は、山道を登りつめて下りにかかる境目を指します。
そこを越えれば道が下りに移ることから、物事の頂点や重大な局面を通り過ぎることを「峠を越す」とたとえるようになりました。
「峠を越す」の使い方
次のような型がよく使われます。
- 「〜が峠を越す/越した」
暑さ、寒さ、病状、混雑などを主語にする形です。「暑さが峠を越した」「混雑が峠を越す」などと使います。 - 「〜は峠を越した」
話題にしている状況について、最も厳しい時期が過ぎたと判断するときに使います。「病状は峠を越した」「作業は峠を越した」などの形です。 - 「峠を越すまで〜」
厳しい時期が過ぎるまでの期間を示します。「峠を越すまで油断できない」「峠を越すまで様子を見る」などと続けます。 - 「峠を越したようだ」
状況の変化から、ピークが過ぎたと推測する形です。「流行は峠を越したようだ」「寒さは峠を越したようだ」などと使います。
「峠を越す」の例文
- 医師から病状は峠を越したと聞き、家族はようやく胸をなで下ろしました。
- 厳しい暑さが峠を越すまでは、屋外での長時間の作業を控えたほうがよさそうです。
- 連休最終日の午後になり、高速道路の激しい渋滞も峠を越したようです。
「峠を越す」の類似表現
山場を越える(やまばをこえる)
「山場」は、物事の進行上で特に重要な局面を指すため、仕事、交渉、試験、作業などについて広く使えます。
「峠を越す」は、暑さや病状など、勢いや危険度が高まったあとに低下へ向かうものともよく結びつきます。
危機を脱する(ききをだっする)
危険な状態から抜け出すことをはっきり示す表現です。
暑さや混雑など、単に勢いの盛んな時期が過ぎたことについては、「危機を脱する」では置き換えにくい場合があります。
「峠を越す」の古い用例
鴨長明の歌論書『無名抄』(1211年頃)には、「境に入り、たうけを越えて後あるべき事也」という記述があります。
ここでの「たうけを越えて」は、歌の道で高い境地に達するという意味で、現在一般的な「最も厳しい時期を過ぎる」という使われ方とは異なります。
鎌倉時代には、すでに「峠を越える」という動作が比喩として使われていました。
徳富蘆花『自然と人生』(1900年)には「戦ひは最早絶頂(トウゲ)を越した」とあります。
「絶頂」に「峠」の読みを添え、戦いの最盛期が過ぎたことを表しており、この時代にはすでに、現在につながる使われ方がされていました。
「峠を越す」の間違いやすい使い方・表記
「峠を越える」という形も使われ、「峠を越す」と意味の違いはほとんどありません
漢字は「峠を超す」ではなく、通常は「峠を越す」と書きます。
文化庁の「異字同訓」の使い分けでも、「越える・越す」は場所や地点などを過ぎて先へ進む場合に用い、その例として「峠を越す」が挙げられています。
「超える・超す」は、基準や数量、程度を上回る場合に用いるのが基本です。
参考文献・出典
- 新村出編『広辞苑』第七版、岩波書店、2018年。
- 米川明彦・大谷伊都子編『日本語慣用句辞典』東京堂出版、2005年、「峠を越す」項。
- 小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005~2006年、「峠」「峠を越す」項。
- 文化庁『「異字同訓」の漢字の使い分け例(報告)』。
