煮え湯を飲まされる
読み方:にえゆをのまされる
「煮え湯を飲まされる」の意味
信頼していた人に裏切られ、ひどい目に遭わされることです。信用して任せていた部下に損害を与えられたり、親しい相手に秘密を漏らされたりした人が、裏切られた衝撃や恨みを込めて使います。
「煮え湯を飲まされる」の語源・由来
「煮え湯」は、煮え立った熱湯のことです。信頼する相手から差し出されたため疑わずに口にしたところ、それが熱湯であったという状況に、思いがけない裏切りを受ける苦しさを重ねた比喩です。
「煮え湯を飲まされる」の使い方
信頼していた相手に裏切られ、ひどい目に遭わされたことを表すときに、「腹心の部下に煮え湯を飲まされる」のように使います。
過去の経験を振り返る場合は「煮え湯を飲まされた」、裏切られたときの気持ちを述べる場合は「煮え湯を飲まされた思いだ」という言い方もよく使われます。
「煮え湯を飲まされる」の例文
- 長年信用してきた共同経営者に会社の資金を持ち逃げされ、社長は煮え湯を飲まされました。
- 研究成果を仲間に横取りされ、彼女は煮え湯を飲まされた思いでした。
- 親友に秘密を売られた彼は、二度と煮え湯を飲まされるものかと人付き合いに慎重になりました。
「煮え湯を飲まされる」の類似表現
飼い犬に手を噛まれる(かいいぬにてをかまれる)
信頼していた者に裏切られるという点では、意味がよく重なります。「飼い犬に手を噛まれる」は、自分が世話をしたり目をかけたりしてきた者から害を受ける場合に適しています。「親友に煮え湯を飲まされる」は自然ですが、親友を「飼い犬」にたとえると見下した言い方に聞こえることがあります。
恩を仇で返す(おんをあだでかえす)
受けた恩に報いず、かえって相手に害を与えることです。「恩人に煮え湯を飲ませる」は裏切った側の行為を述べる文ですが、「恩を仇で返す」では、以前に恩を受けていたことが前提になります。
「煮え湯を飲まされる」の古い用例
国枝史郎の小説『名人地獄』には、「五年以前あの賊のために、ひどく煮え湯を呑ませられましてな」とあります。同作は1925年に『サンデー毎日』で連載されました。
ここでは信頼していた人物ではなく「賊」から受けた仕打ちについて、「煮え湯を呑ませられる」という語形が使われています。単に敵からひどい目に遭わされるという広い用法が、大正時代の作品にもあったことを示す例です。
間違いやすい使い方
敵や競争相手に敗れただけの場面で使うと、従来の意味から外れます。「宿敵との試合に負けて煮え湯を飲まされた」とするより、信頼関係のあった相手から不意に裏切られた場面に用いるのが適切です。
ただし、近年では「敵からひどい目に遭わされる」という、本来とは異なる意味で使われることもあります。文化庁の令和5年度「国語に関する世論調査」では、本来の意味である「信頼していた者から裏切られる」を選んだ人が68.5%だったのに対し、「敵からひどい目に遭わされる」を選んだ人も24.4%いました。
意味の取り違えを避けたい文章では、裏切った相手との信頼関係が分かるように書くと明確に伝わります。
参考文献・出典
- 新村出編『広辞苑』第七版、岩波書店、2018年。
- 米川明彦・大谷伊都子編『日本語慣用句辞典』東京堂出版、2005年、「煮え湯を飲まされる」項。
- 小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005~2006年。
- 文化庁『令和5年度「国語に関する世論調査」の結果の概要』、2024年。
- 国枝史郎『名人地獄』、「サンデー毎日」、1925年7月5日~10月25日。
