読み方:こうらをへる

「甲羅を経る」の意味

長い経験を積んで、物事に慣れ、老練になることです。

経験を重ねた結果、世間ずれして厚かましくなるという、やや否定的な意味で使われることもあります。

「甲羅を経る」の語源・由来

「甲羅」は、ここでは亀や蟹の硬い殻そのものを指すのではなく、「功」や「劫(こう)」に掛けて、年の功や長い経験を表しており、「ら」は接尾語です。

この表現には、「劫を経る」「劫量(こうりょう)経る」「劫臈(こうろう)を経る」といった古い言い方とのつながりがあると考えられています。

「劫臈」は長い年月や長年の習練、年功を意味する言葉です。

こうした表現を背景に、江戸時代後期には「こうらを経る」という言い回しが使われるようになりました。

「甲羅を経る」の使い方

次のような型がよく使われます。

  • 「甲羅を経た〜」
    経験豊かな人を表す連体形で、「人」「人物」「職人」などの名詞につなげます。「甲羅を経た職人」「甲羅を経た人物」などの形です。
  • 「甲羅を経ている」
    長年の経験を身につけている状態を表します。「相当甲羅を経ている」「商売で甲羅を経ている」などと使います。

「甲羅を経る」の例文

  • 長年この町で店を守ってきた主人は、甲羅を経た商売人だけあって、客の様子をひと目で見抜いた。
  • 今度の交渉相手は相当甲羅を経ているので、小手先の駆け引きは通じそうにない。
  • 若いころは控えめだった彼も、厳しい商売の世界で甲羅を経て、少々のことでは動じなくなった。

「甲羅を経る」の類似表現

劫臈を経る(こうろうをへる)

意味はほぼ同じで、長年の経験を積んで巧みになることをいいます。

「甲羅を経る」と歴史的にも関係の深い表現ですが、「劫臈」は現代ではかなり古風な言葉です。

場数を踏む(ばかずをふむ)

実際の経験を何度も重ねることをいいます。

「甲羅を経る」が長い年月を経て身についた老練さにも使われるのに対し、「場数を踏む」は経験する回数や実践の積み重ねをいう場合に向いています。

「甲羅を経る」の古い用例

式亭三馬の滑稽本『浮世風呂』(1809~1813年)には、「山の神の功(コウラ)を経(ハイ)たのだから」という記述があります。

「こうら」を「功」と書き、「経」を「はい」と読ませた形で、現在とは表記や言い回しが異なっています。

樋口一葉『にごりえ』(1895年)には、「其やうに甲羅は経ませぬ」とあります。

明治時代には「甲羅」という現在と同じ表記が見られ、助詞を「は」とした「甲羅は経る」という形でも使われていました。

参考文献・出典

  • 新村出編『広辞苑』第七版、岩波書店、2018年。
  • 米川明彦・大谷伊都子編『日本語慣用句辞典』東京堂出版、2005年、「甲羅を経る」項。
  • 小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005~2006年、「甲羅を経る」「甲羅」「劫臈を経る」項。
  • 樋口一葉『にごりえ』1895年。
ABOUT ME
北澤篤史
ことわざ学会理事。ことわざ・慣用句・故事成語・四字熟語・漢字熟語を対象に、語源・由来、古い用例、文献上の変遷を研究している。2025年度ことわざ研究奨励賞受賞。著書に『〈試験に出る〉マンガでわかる すごいことわざ図鑑』『〈試験に出る〉マンガでわかる おもしろい四字熟語図鑑』『マンガでわかる 漢字熟語の使い分け図鑑』(いずれも講談社)がある。