襟を正す
読み方:えりをただす
「襟を正す」の意味
それまでの態度を改め、気持ちを引き締めて真剣に物事に向き合うことです。
文字どおりには、乱れた衣服や姿勢をきちんと整えることをいいます。
比喩的には、自分の行動を反省して態度を改める場合のほか、重要な話や厳粛な事柄に真剣な気持ちで向き合うことも表します。
「襟を正す」の語源・由来
「襟を正す」は、衣服の襟を整え、姿勢を改めて座る所作と結び付いた表現です。
中国の古典には「正襟危坐」という言葉があり、襟を整えて姿勢を正し、かしこまって座る様子を表しています。
『史記』「日者列伝」には「獵纓正襟危坐」とあり、冠のひもと襟を整えて座る姿が記されています。
北宋の蘇軾による『前赤壁賦』にも、笛の音を聞いた蘇軾が真剣な様子になって「正襟危坐」する場面があります。
日本語の「襟を正す」は、こうした漢文の表現に連なるものとされ、とくに『前赤壁賦』が由来として挙げられています。
「襟を正す」の使い方
次のような型がよく使われます。
- 「襟を正して〜」
「襟を正して」の後ろに、真剣に行う動作を続ける形です。「襟を正して話を聞く」「襟を正して仕事に臨む」などと使います。 - 「〜が襟を正す」
態度を改める人や組織を主語に置く形です。「社員一同が襟を正す」「業界全体が襟を正す」などと表せます。 - 「自ら襟を正す」
他人を責めるのではなく、自分自身の態度や行動を改めることを示す形です。「まず自ら襟を正す」「責任者が自ら襟を正す」などと使います。 - 「襟を正す必要がある/襟を正さなければならない」
反省や改善が求められる場面でよく用いられます。「私たちも襟を正す必要がある」「改めて襟を正さなければならない」などの形です。
「襟を正す」の例文
- 相次ぐ不祥事を受け、経営陣は襟を正して再発防止に取り組むと表明しました。
- 長年この道を歩んできた先生の言葉に、学生たちは思わず襟を正して耳を傾けました。
- ライバル会社の失敗を笑うのではなく、自分たちも襟を正さなければならないでしょう。
「襟を正す」の類似表現
居住まいを正す(いずまいをただす)
「居住まいを正す」は、座っている姿勢をきちんと整えることを指します。
「襟を正す」は服装や姿勢だけでなく、気持ちや態度を改める比喩的な使われ方が広く定着している点が異なります
気を引き締める(きをひきしめる)
内面的な意味では、多くの場面で「襟を正す」と重なります。
「気を引き締める」は油断せず集中することを広く表せるのに対し、「襟を正す」には、それまでの態度を改めることや、改まった気持ちで物事に向き合う響きがあります。
「襟を正す」の古い用例
1894年に発表された泉鏡花の『義血侠血』には、「渠は襟(キン)を正して、うやうやしく白糸の前に頭を下げたり」とあります。
この例では「襟」を「きん」と読んでおり、相手への敬意を示して身なりや態度を改める場面で用いられています。
1907年の夏目漱石『虞美人草』には、「巫山戯たるものが急に襟を正すから偉大なのである」という記述があります。
ここでは「えりを正す」という言い回しで、ふざけた態度から急に真剣な態度へ変わることを表しており、現在の比喩的な意味とほぼ同じです。
参考文献・出典
- 新村出編『広辞苑』第七版、岩波書店、2018年。
- 米川明彦・大谷伊都子編『日本語慣用句辞典』東京堂出版、2005年、「襟を正す」項。
- 小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005~2006年、「襟を正す」項。
- 蘇軾『前赤壁賦』。
- 泉鏡花『義血侠血』、1894年。
- 夏目漱石『虞美人草』、1907年。
- 中華民国教育部『成語典』「正襟危坐」項。
