えも言われぬ
読み方:えもいわれぬ
「えも言われぬ」の意味
言葉では言い表せないほどすばらしい、何とも形容しようがないほど心を引かれるという意味です。
現代では、美しさ、趣、香り、魅力、感動など、好ましいものをたたえる言い方として使われるのが一般的です。
単に「説明できない」というだけでなく、言葉では十分に表現できないほどのよさや強い感銘を含んだ言い方です。
「えも言われぬ」の語源・由来
「えも」は、可能の意味を持つ古い言葉「え」に、意味を強める助詞「も」が付いた言い方です。
この「え」は、何かを自分のものにするという意味の「得る(う)」という動詞から生まれました。
古くは「立派に〜できる」という意味もありましたが、やがて後ろに打消しの言葉が結びついて、「どうしても〜できない」という意味が広く定着しました。
「言われぬ」の「れ」は可能、「ぬ」は打消しを示すため、「えも言われぬ」は成り立ちの上では「どうしても言葉で言い表すことができない」という意味です。
そこから、言葉に尽くせないほど程度が並外れていることを表すようになり、現代では特に、すばらしさや美しさをたたえる表現として定着しています。
「えも言われぬ」の使い方
次のような型がよく使われます。
- 「えも言われぬ+名詞」
「美しさ」「趣」「魅力」「香り」など、言葉にしにくいほど強く感じられる性質を表す名詞の前に置く形です。「えも言われぬ美しさ」「えも言われぬ趣」「えも言われぬ香り」などと使います。 - 「〜にはえも言われぬ+名詞がある」
人や物、場所などが備えている魅力や味わいを述べる形です。「古寺にはえも言われぬ趣がある」「彼の声にはえも言われぬ魅力がある」などと使えます。 - 「えも言われぬ+感情を表す名詞+に/を〜」
「感動」「幸福感」などと結びつけ、その感情を味わったことを後ろの動詞で表します。「えも言われぬ感動に包まれる」「えも言われぬ幸福感を味わう」などの形です。
「えも言われぬ」の例文
- 山頂から雲海の向こうに朝日が昇る光景は、えも言われぬ美しさだった。
- 長い年月を経た木造の茶室には、華やかな建物とは違うえも言われぬ趣がある。
- 何年も目標にしてきた舞台に立った瞬間、えも言われぬ感動に包まれた。
「えも言われぬ」の類似表現
筆舌に尽くし難い(ひつぜつにつくしがたい)
文章や言葉を尽くしても表現できないほど、程度が並外れていることを表します。
「筆舌」は書くことと話すことの両方を含むため、やや硬く改まった表現です。
「えも言われぬ」が現代では美しさや魅力など好ましいものに使われやすいのに対し、「筆舌に尽くし難い」は「筆舌に尽くし難い苦労」「筆舌に尽くし難い無念」のように、つらい事柄にも広く使えます。
言い知れぬ(いいしれぬ)
「何と言ってよいか分からない」「言葉で言い表せない」という点で近い表現です。
評価する方向は「えも言われぬ」より広く、「言い知れぬ不安」「言い知れぬ寂しさ」のように、不安や悲しみなどにもよく用いられます。
「えも言われぬ」の古い用例
現在の「えも言われぬ」につながる古い言い方として、「えも言わず」が平安時代の文献に残されています。
『宇津保物語』(970~999年頃)の「祭の使」には、「とねり三十人、えもいはずさうぞかせて」という記述があります。
この時代には「えもいはず」という言い回しが、言葉に尽くせないほどすばらしいことを表す肯定的な表現としてすでに使われていました。
『源氏物語』(1001~1014年頃)の「朝顔」には、「池の氷もえもいはずすごきに」とあります。
「えも言わず」は、古くは必ずしも賞賛だけに限られず、程度が並外れて、何とも言い表しようがないことにも用いられていました。
近代になると、現在に近い「えも言われず・えも言われぬ」という言い回しが現れます。
尾崎紅葉『不言不語』(1895年)には「得も謂はれず面白くて」、国木田独歩『春の鳥』(1904年)には「得も言はれぬ趣でした」という記述があります。
明治時代には、現在と同じ「言われぬ」の言い方で、すばらしい趣を表す使われ方が見られます。
「えも言われぬ」の間違いやすい使い方・表記
「えも」は「得も」と漢字で表すこともありますが、「えも言われぬ」と仮名で書いても意味は同じです。
「得」は、ここでは「利益」という意味ではなく、可能を表す古い言葉「え」の表記です。
「えも言えぬ」という言い方も実際に使われ、辞書に採用している例がありますが、慣用的な形としては「えも言われぬ」が広く定着しています。
参考文献・出典
- 新村出編『広辞苑』第七版、岩波書店、2018年。
- 米川明彦・大谷伊都子編『日本語慣用句辞典』東京堂出版、2005年、「えも言われぬ」項。
- 小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005~2006年、「得」「得も」「得も言わず」「得も言われず」項。
