背水の陣
読み方:はいすいのじん
「背水の陣」の意味
あとへ退けない厳しい状況で、決死の覚悟をもって物事に当たることです。
自ら退路を断って勝負に出る場合にも、失敗が重なって逃げ道を失った場合にも使われます。
「背水の陣」の語源・由来
中国の歴史書『史記』「淮陰侯列伝」に記された、漢の武将・韓信の戦いに由来します。
韓信は趙の軍と戦う際、一万人の兵を川に背を向ける位置へ配置しました。
退却すれば水に阻まれるため、兵たちは逃げることも出来ず必死で戦います。
その隙に別働隊の騎兵二千人が、手薄になった趙の陣営に潜入し、旗を漢軍のものに取り替えました。
陣へ戻ろうとした趙軍は旗を見て混乱し、韓信の軍に挟み撃ちにされて敗れたのです。
原文には「信乃使万人先行、出、背水陳」とあります。
「陳」は軍勢を並べて陣を構えることで、ここから日本語の「背水の陣」という形が生まれました。
「背水の陣」の使い方
次のような型がよく使われます。
- 「背水の陣を敷く」
自ら退路を断ち、失敗の許されない態勢を作る場合に使います。「陣を敷く」は、軍勢を配置することから生まれた言い方です。 - 「背水の陣を張る」
「背水の陣を敷く」とほぼ同じ意味です。「張る」には、陣地を構えるという軍事上の語義があります。 - 「背水の陣で〜に臨む」
助詞「で」は勝負に向かう態勢を示し、「に」の後ろには試合、交渉、試験などを置きます。 - 「背水の陣に追い込まれる」
連敗や資金不足などによって、外から逃げ道のない状態へ追い詰められた場合の形です。
「背水の陣」の例文
- 社長は不採算部門から撤退し、背水の陣を敷いて新事業に資金を集中させた。
- あと一敗すれば予選敗退となる場面で、チームは背水の陣で最終戦に臨む。
- 奨学金の継続が懸かった再試験を前に、彼女は背水の陣に追い込まれていた。
「背水の陣」の類似表現
一か八か(いちかばちか)
結果がどうなるか分からないまま、運を天に任せて勝負することです。
「背水の陣」は失敗すれば後がない状況を重く見ますが、「一か八か」は結果の不確かさを気にせず、思い切って賭けに出る行動を示します。
捨て身(すてみ)
自分が傷ついたり損をしたりする危険を顧みず、思い切った行動に出ることです。
まだ逃げ道や別の選択肢が残されていても使えるため、「背水の陣」より適用できる場面が多くあるということです。
「背水の陣」の古い用例
14世紀後半に成立した『太平記』巻第三十二には、「背水陣を張しに違へり」とあります。
「の」を挟まない「背水陣」という形で、韓信の故事と実際の陣立てを比較する軍事的な文脈に用いられています。
参考文献・出典
- 新村出編『広辞苑』第七版、岩波書店、2018年。
- 米川明彦・大谷伊都子編『日本語慣用句辞典』東京堂出版、2005年、「背水の陣」項。
- 小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』、小学館、2005~2006年、「背水の陣」項。
- 司馬遷『史記』巻九十二「淮陰侯列伝第三十二」。
