読み方:こうかくあわをとばす

「口角泡を飛ばす」の意味

「口角泡を飛ばす」とは、口からつばを飛ばすほどの勢いで、激しく議論したり話したりする様子をいいます。

意見を強く主張したり、議論が白熱したりした場面で使われます。実際につばや泡が飛んでいる必要はありません。

「口角泡を飛ばす」の語源・由来

由来は、中国・唐代の詩人、李商隠(りしょういん)が詠んだ「韓碑(かんぴ)」にあります。

「韓碑」は、唐代の文人・韓愈(かんゆ)が書いた碑文をたたえた詩です。その中に、

口角流沫右手胝

という句があります。「口の端からつばの泡が流れ、右手にはたこができる」という意味で、韓愈の文章を何度も書き写し、何度も声に出して読みたいという思いを誇張して表しています。

もとの詩では、一人で繰り返し文章を読む様子でした。日本では意味の使われ方が変わり、口からつばを飛ばすほど勢いよく議論する様子を「口角泡を飛ばす」というようになりました。

「口角泡を飛ばす」の使い方

「口角泡を飛ばして議論する」「口角泡を飛ばして反論する」のように、「口角泡を飛ばして+話す・論じることを表す動詞」の形で使えます。

複数の人が激しく意見を交わす場面によく使われますが、一人が熱を込めて持論を語ったり、激しい調子でしゃべったりする場合にも使えます。織田作之助の「猫と杓子について」には、「口角泡を飛ばして喋る」という使い方があります。

「口角泡を飛ばす」の例文

  • 両候補は政策の違いについて、口角泡を飛ばして討論しました。
  • 父は昔の野球の話になると、口角泡を飛ばして自分の考えを語ります。
  • 会議室では、新しい計画をめぐって口角泡を飛ばす議論が続きました。

「口角泡を飛ばす」の類似表現

侃侃諤諤(かんかんがくがく)

「侃侃諤諤」は、正しいと思うことを遠慮せず堂々と主張したり、盛んに議論したりする様子をいいます。

「侃侃諤諤の議論」のように使います。「口角泡を飛ばす」が、つばが飛ぶほどの激しい話しぶりを目に見えるように描いた表現なのに対し、「侃侃諤諤」には、遠慮せず意見を述べるという意味もあります。

喧喧囂囂(けんけんごうごう)

「喧喧囂囂」は、多くの人が口々に騒ぎ立て、やかましい様子をいいます。

「口角泡を飛ばす」が激しい話し方や議論を描くのに対し、「喧喧囂囂」は「会場が喧喧囂囂となる」のように、多くの人が騒いでいる場全体の様子を表すのに適しています。

「口角泡を飛ばす」の古い用例

徳富蘆花の『思出の記』は、1900~1901年(明治33~34年)に発表された作品です。その中には、

口角沫を飛ばし、扼腕撃節して論ずるに当っては

という表現があります。

現在一般的な「泡」ではなく「沫」の字が使われていますが、すでにこの時期には、激しい勢いで論じる場面に使われていました。

その後、織田作之助の「猫と杓子について」には、現在と同じ「口角泡」の表記が登場します。この作品は1946年9月にNHKラジオで初めて発表され、「口角泡を飛ばして喋る」という形が使われています。

参考文献・出典

  • 新村出編『広辞苑』第七版、岩波書店、2018年。
  • 米川明彦・大谷伊都子編『日本語慣用句辞典』東京堂出版、2005年、「口角泡を飛ばす」項。
  • 小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005~2006年、「口角泡を飛ばす」項。
  • 円満字二郎編『小学館 故事成語を知る辞典』小学館、2018年、「口角泡を飛ばす」項。
  • 李商隠「韓碑」。
  • 徳富蘆花『思出の記』、1900~1901年発表。
  • 織田作之助「猫と杓子について」、初出「NHKラジオ放送」、1946年9月。
ABOUT ME
北澤篤史
ことわざ学会理事。ことわざ・慣用句・故事成語・四字熟語・漢字熟語を対象に、語源・由来、古い用例、文献上の変遷を研究している。2025年度ことわざ研究奨励賞受賞。著書に『〈試験に出る〉マンガでわかる すごいことわざ図鑑』『〈試験に出る〉マンガでわかる おもしろい四字熟語図鑑』『マンガでわかる 漢字熟語の使い分け図鑑』(いずれも講談社)がある。