抑揚頓挫
読み方:よくようとんざ
「抑揚頓挫」の意味
「抑揚頓挫」とは、言葉や文章の調子を上げたり下げたり、途中で勢いを変えたりして、変化をつけることです。
音楽などの調子についても用いられ、勢いが途中で衰えることを指す場合もあります。
「抑揚頓挫」の語源・由来
「抑揚頓挫」という四字の並びは、中国の古い文献にそのまま見られます。
西晋の陸機「遂志賦」の序には、後漢の文人・馮衍の文章を評して、
衍抑揚頓挫,怨之徒也。
とあります。
ここでは「抑揚頓挫」が、馮衍の表現の起伏や調子を評する言葉として使われています。
少なくとも西晋の時代には、現在と同じ「抑揚頓挫」という四字の並びが存在していたことが分かります。
ただし、この時点ですでに現代と同じ固定した四字熟語として定着していたかまでは断定できません。
南宋の張戒『歳寒堂詩話』にも、曹植の詩について
「微婉之情、洒落之韻、抑揚頓挫之氣」
と評する箇所があり、詩の調子や文勢を論じる語として四字形が使われています。
同じ南宋の謝枋得が編んだ『文章軌範』には
「有抑揚、有頓挫」
とあり、「抑揚」と「頓挫」を文章の変化を生む技法として並べています。
この箇所は「抑揚頓挫」と四字を続けた形ではありません。
したがって、『文章軌範』の二語を後世に組み合わせて初めて四字熟語が作られたとすることはできません。
「抑揚頓挫」の使い方
次のような形で使われます。
- 「抑揚頓挫のある〜」
後ろに「話し方」「語り口」「朗読」「文章」などを続けます。「抑揚頓挫のある語り口」などの形です。 - 「〜の抑揚頓挫が巧みだ」
「言葉」「演説」「朗読」などを前に置き、その調子の変化が優れていることを述べます。「朗読の抑揚頓挫が巧みだ」などと使います。 - 「抑揚頓挫の妙」
語りや文章に施された巧みな調子の変化を評価するときの、やや文章語的な形です。「演説における抑揚頓挫の妙」などと使います。
「抑揚頓挫」の例文
- 司会者は抑揚頓挫のある語り口で、長い式典を最後まで引き締めました。
- 彼女は声をむやみに大きくするのではなく、言葉の抑揚頓挫が巧みなので、説明の要点がよく伝わります。
- この随筆には短い文と長い文が効果的に配置され、文章の抑揚頓挫の妙が感じられます。
「抑揚頓挫」の類似表現
緩急自在(かんきゅうじざい)
「緩急自在」は、状況に応じて速度を遅くしたり速くしたり、ゆるめたり強めたりして思いどおりに操ることです。
投球や演奏、文章など幅広い対象に使えます。
「抑揚頓挫」と重なる場面もありますが、「緩急自在」は速さや強さを自在に調節できる点を特に表します。
「抑揚頓挫」を構成する言葉の意味
「抑揚」は、「抑」が下げること、「揚」が上げることから、音声・音楽・文章などの調子の上げ下げをいいます。
「頓挫」は現代では「計画が行き詰まる」という意味がよく知られていますが、文章や演説については、高まった調子を途中で落としたり変化させたりする意味があります。
日本でも1763年の『詩学逢原』に
「頓挫、抑揚、波瀾、起伏等の勢あり」
とあり、この語義が古くから文章論で使われていたことが分かります。
「抑揚頓挫」の古い用例
日本語文献では、少なくとも明治10年(1877年)の増山守正『明治新撰西京繁昌記』に、現在と同じ「抑揚頓挫」の四字形が見られます。
抑揚頓挫奇々妙々、衆客我を忘れて瞳焉たり
明治初期にはすでに日本語の文章で四字形が用いられていたことを示す例です。
同書が1877年に刊行されたことは国立国会図書館の書誌でも確認できます。
二葉亭四迷『新編浮雲』第二篇(1888年)では、人物の巧みな話しぶりを描く中で
「自然に備わる抑揚頓挫」
と使われています。
ここでは声や話し方の調子を評価する語として用いられており、明治20年代初めには近代小説の文章にも取り入れられていました。
「抑揚頓挫」の間違いやすい使い方・表記
「頓挫」を「計画が失敗すること」の意味だけで受け取り、「抑揚頓挫」全体を「物事が途中で失敗すること」と解釈するのは適切ではありません。
「抑揚」と組み合わさった場合には、文章・声・音楽などの調子を途中で変化させる意味が中心になります。
参考文献・出典
- 新村出編『広辞苑』第七版、岩波書店、2018年。
- 飯間浩明編『小学館 四字熟語を知る辞典』小学館、2018年、「抑揚頓挫」項。
- 小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005~2006年、「抑揚頓挫」「頓挫」項。
- 陸機「遂志賦」序(『陸士衡文集』所収)。
- 張戒『歳寒堂詩話』。
- 謝枋得編『文章軌範』。
- 増山守正『明治新撰西京繁昌記』大谷仁兵衛ほか、1877年。
- 二葉亭四迷『新編浮雲 第二篇』金港堂、1888年。
