名詮自性
読み方:みょうせんじしょう
「名詮自性」の意味
名がそのものの本来の性質を表し、名称と実体とが一致していることを意味します。
「名詮自性」の語源・由来
「名詮自性」は仏教の唯識思想に関わる言葉で、『成唯識論』巻二に現在と同じ「名詮自性」の四字がそのまま見えます。
『成唯識論』は護法らの学説をもとに、唐の玄奘が659年に漢訳・編集した論書です。
該当箇所には
「名詮自性、句詮差別」
とあります。
「名」は物事を示す名称、「句」は語を組み合わせた句で、名は対象の自性を、句はその差別を表すという、言葉の働きを論じる部分です。
現在の四字形は、故事の内容を後世に四字へまとめたものではありません。
「名詮自性」の使い方
次のような形で使われます。
- 「〜は名詮自性だ/である」
人名、地名、店名などについて述べるときに使います。 - 「名詮自性というべき〜」
後ろに「名前」「命名」「地名」などを続けます。
「名詮自性」の例文
- 海を望む高台にある「潮見台」という地名は、まさに名詮自性です。
- 彼の雅号「静山」は物静かな人柄によく合い、周囲から名詮自性だと評されていました。
- 地元産の木材だけを扱う店に「木の里」と名づけたのは、名詮自性というべき命名です。
「名詮自性」の類似表現
名実一体(めいじついったい)
名称や肩書、評判などの「名」と、実際の中身が一致していることを表します。
肩書と能力、評判と実績などについても使えるため、「名詮自性」より対象の範囲が広い表現です。
名は体を表す(なはたいをあらわす)
意味は非常に近く、人や物の名がその実体や性質に合っていることをいうことわざです。
四字熟語である「名詮自性」に比べ、日常的な文章や会話にも取り入れやすい表現です。
「名詮自性」の古い用例
14世紀後半の『太平記』巻二十九「光明寺合戦事付師直怪異事」には、
「名詮自性の理」
という形が見えます。
足利尊氏が「引尾」、高師直が「泣尾」に陣を取った場面で、その地名を攻め手にとって不吉に響くものとして記しています。
この例からは、中世の日本ですでに、仏教教学だけに限らず、名称から物事の性質や成り行きを連想する場面にも「名詮自性」が用いられていたことが分かります。
「名詮自性」の間違いやすい使い方・表記
一般的な読みは「みょうせんじしょう」ですが、「めいせんじしょう」という読みも記録されています。
表記には「名詮自性」のほか「名詮自称」もあります。
「名詮自称」を単純な誤字とはできず、巖谷小波『駒のいななき』(1916年)にも「名詮自称(メイセンジショウ)」という用例があります。
参考文献・出典
- 新村出編『広辞苑』第七版、岩波書店、2018年。
- 飯間浩明編『小学館 四字熟語を知る辞典』小学館、2018年、「名詮自性」項。
- 小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005~2006年、「名詮自性」項。
- 高楠順次郎編『大正新脩大藏經』第31巻「瑜伽部」、大正一切經刊行會、1925年、護法等造・玄奘訳『成唯識論』巻二。
- 兵藤裕己校注『太平記 四』岩波文庫、岩波書店、2015年。
