不可抗力
読み方:ふかこうりょく
「不可抗力」の意味
人の力では抵抗したり、防いだりすることのできない力や事態のことです。
法律では、外部から生じた出来事について、通常求められる注意や予防を尽くしても損害を防げない場合を指す法律用語として使われます。
「不可抗力」の語源・由来
「不可抗力」は、中国古典の故事をもとにした表現ではなく、西洋の法律概念を日本語に取り入れる過程で形を整えた近代の法律語です。
もとになったのは、フランス語の法学語「force majeure」です。
箕作麟祥によるフランス民法の初期の翻訳では、「force majeure」を現在の「不可抗力」という四字形ではなく、「抗拒ス可カラサル力アル意外ノ事」と説明的に訳しています。
明治期の法典編纂では、このような「抵抗することのできない力」という内容が、短い法律用語「不可抗力」へまとめられていきました。
したがって、元の西洋法上の概念と、現在の日本語の四字形は区別する必要があります。
「force majeure」という概念が先にあり、日本語の「不可抗力」はその受容と法典編纂の過程で定着した語です。
「不可抗力」の使い方
次のような形で使われます。
- 「不可抗力で〜」
出来事の原因として示し、後ろに「中止になる」「遅れる」「発生する」などを続けます。「不可抗力で延期になる」などの形です。 - 「不可抗力による〜」
後ろに「事故」「遅延」「損失」「中断」などを続けます。「不可抗力による納期の遅れ」などと使います。 - 「不可抗力だ」
起きた事態について、人の力では防げなかったと判断するときに使います。
「不可抗力」の例文
- 記録的な豪雨で交通網が全面的に止まり、式典は不可抗力で延期となりました。
- 契約書には、地震などの不可抗力による納期の遅延について定めた条項があります。
- 大規模な噴火に伴って空港が閉鎖された以上、今回の欠航は不可抗力だと判断されました。
「不可抗力」の類似表現
天変地異(てんぺんちい)
地震・洪水・暴風など、天地に起こる大きな異変を指します。
「不可抗力」は出来事の種類ではなく、人の力で防止できたかどうかという点から使う言葉なので、戦争や騒乱など自然現象以外の事態が含まれる場合もあります。
「不可抗力」の古い用例
現在と同じ「不可抗力」という四字形は、少なくとも明治21年(1888年)の法典編纂資料に見られます。
2月13日の法律取調委員会『民法草案議事筆記 第24回』では、
「抗拒スルコトヲ得サル」
を「不可抗力」に改める修正が記録されており、法典の文章を整える過程でこの四字形が用いられていたことが分かります。
明治23年(1890年)4月21日に公布された旧民法にも「不可抗力」が条文語として採用されました。
この旧民法は施行されないまま廃止されましたが、明治29年(1896年)公布の民法にも
「債務者ハ不可抗力ヲ以テ抗弁ト為スコトヲ得ス」
と入り、現在まで続く法律用語となっています。
法律以外では、森鷗外の『大塩平八郎』(1914年)に
「一種の不可抗力のやうに」
という用例があります。
この段階では、人を動かす抗しがたい力を表す一般的・比喩的な使い方にも広がっていたことが分かります。
「不可抗力」の間違いやすい使い方・表記
日常では「自分にはどうしようもなかった」という広い意味で使えますが、法律上は、単に予想外だったことや、対応が難しかったことだけで不可抗力になるとは限りません。
契約では、どの出来事を不可抗力として扱うかが条項によって具体的に定められる場合があります。
また、不可抗力であれば必ず法律上の責任を免れるわけでもありません。
民法419条3項は、金銭債務の不履行による損害賠償について、債務者は「不可抗力をもって抗弁とすることができない」と定めています。
参考文献・出典
- 新村出編『広辞苑』第七版、岩波書店、2018年。
- 飯間浩明編『小学館 四字熟語を知る辞典』小学館、2018年、「不可抗力」項。
- 小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005~2006年、「不可抗力」項。
- 法律取調委員会『民法草案議事筆記 第24回』明治21年2月13日。
- 『民法財産編財産取得編債権担保編証拠編』明治23年法律第28号。
- 『民法』明治29年法律第89号。
- 独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構「不可抗力」。
