読み方:もうきふぼく

「盲亀浮木」の意味

「盲亀浮木」は、めったにめぐり合えないこと、また、非常にまれな幸運や機会にめぐり合うことのたとえです。

「盲亀浮木」の語源・由来

「盲亀浮木」のもとになったのは、仏典に伝わる「盲目の亀と浮木」の譬えです。

劉宋の求那跋陀羅が漢訳した『雑阿含経』巻十五・第四〇六経では、大地がすべて海になったと仮定し、長い命を持つ盲目の亀が百年に一度だけ水面へ頭を出すと説きます。

海には穴が一つだけ開いた浮木があり、風と波によって東西へ漂っています。

亀が浮上したとき、その穴に偶然出会うことがどれほど難しいかを阿難に問いかける譬えです。

同じ箇所には、

「盲龜浮木、雖復差違、或復相得」

とあり、「盲龜浮木」という現在の「盲亀浮木」に当たる四字の並びが実際に見られます。

ただし、この部分は文脈上、「盲亀」と「浮木」を並べた語句でもあるため、現在の日本語と同じ固定した四字熟語が、この漢訳の時点ですでに成立していたとまでは断定できません。

この譬えは『雑阿含経』だけに限られません。

『法華経』の妙荘厳王本事品には

「又如一眼之龜、值浮木孔」

とあり、「盲亀」ではなく「一眼の亀」とする形が見られます。

『涅槃経』などにも類似する譬えが伝わっています。

仏教では、人として生まれることや、仏・仏法に出会うことがきわめて得がたいことを示すために用いられてきました。

日本で「盲亀浮木」という四字の形が、いつ固定した四字熟語として成立したのかは明らかになっていません。

中世には関連する譬えが和歌や文学へ取り入れられ、仏教的な意味だけでなく、人との得がたい出会いなどを示す表現としても用いられるようになりました。

「盲亀浮木」の使い方

次のような形で使われます。

  • 「盲亀浮木のような〜」
    後ろには「出会い」「巡り合わせ」「幸運」などを続けます。「盲亀浮木のような出会い」などの形です。
  • 「〜は盲亀浮木だ」
    偶然がいくつも重なった珍しい再会や機会について述べるときに使えます。
  • 「盲亀浮木に値う」
    「値う」は「あう」と読みます。仏教関係の文章などで、きわめて得がたいものにめぐり合うことを表す形です。「盲亀浮木に値う」という言い方は辞書にも収録されています。

「盲亀浮木」の例文

  • 海外の小さな町で十数年ぶりに旧友と再会するとは、まさに盲亀浮木のような巡り合わせでした。
  • 長年探し続けていた貴重な資料を偶然手に取ることができたのは、私にとって盲亀浮木ともいうべき幸運でした。
  • 彼は優れた師から直接学べる機会を、盲亀浮木に値うほど得がたい縁として大切にしました。

「盲亀浮木」の類似表現

千載一遇(せんざいいちぐう)

「千載一遇」は、めったに訪れない絶好の機会について広く使えます。

仕事や競技などで「千載一遇のチャンス」とすることも多く、「盲亀浮木」より宗教的な響きが弱い表現です。

一期一会(いちごいちえ)

「一期一会」は、その出会いを一生に一度のものと考えて大切にすることに重点があります。

出会う確率の低さそのものを述べたい場合には、「盲亀浮木」のほうが適しています。

「盲亀浮木」の古い用例

室町時代に成立した御伽草子『鴉鷺物語』、別名『鴉鷺合戦物語』には、現在と同じ四字の形を含む、

「誠是優曇相現、盲亀浮木、喜有レ余者哉」

という用例が伝わっています。

「優曇相現」と並べて「盲亀浮木」を置いており、めったに得られない出来事に出会った喜びを表す語として四字形が使われていた例です。

作品そのものは室町時代の成立で、現存する古い刊本には寛永年間刊行と推定されるものや、慶安二年(一六四九年)刊のものがあります。

四字形とは別に、中世には「盲亀の浮木」という形も使われています。

謡曲『鵺』には、十五世紀の用例として

「悲しきかなや身は籠鳥、心を知れば盲亀の浮木…」

とあります。

この例では、得がたいものにめぐり合えない悲しみを表す文脈に取り入れられています。

参考文献・出典

  • 新村出編『広辞苑』第七版、岩波書店、2018年。
  • 飯間浩明編『小学館 四字熟語を知る辞典』小学館、2018年、「盲亀浮木」項。
  • 小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005~2006年。
  • 中村元『広説佛教語大辞典』東京書籍、2001年。
  • 石田瑞麿『例文 仏教語大辞典』小学館、1997年。
  • 高楠順次郎編『大正新脩大藏經』第2巻「阿含部 下」、大正一切經刊行會、1924年。
  • 高楠順次郎編『大正新脩大藏經』第9巻「法華部 全・華嚴部 上」、大正一切經刊行會、1925年。
  • 金沢篤「『盲亀浮木の喩』と定家の恋歌」『駒沢大学仏教学部研究紀要』第73号、駒沢大学、2015年。
  • 黄一丁「亀の和歌に見られる『蓬莱仙境』・『盲亀浮木』などの故事について」『アジア遊学』第223号、勉誠社、2018年。
  • 立命館大学図書館「『盲亀浮木』という仏教説話について、以下の点を知りたい」レファレンス協同データベース、2026年。
ABOUT ME
北澤篤史
四字熟語・漢字熟語・ことわざ・慣用句・故事成語を対象に、語源・由来、古い用例、文献上の変遷を研究している。ことわざ学会理事。2025年度ことわざ研究奨励賞受賞。著書に『〈試験に出る〉マンガでわかる おもしろい四字熟語図鑑』『〈試験に出る〉マンガでわかる すごいことわざ図鑑』『マンガでわかる 漢字熟語の使い分け図鑑』(いずれも講談社)がある。