渡りに船
読み方:わたりにふね
「渡りに船」の意味
何かをしようとしているときに、必要なものや望ましい条件がちょうどよく現れて好都合なことです。
自分の目的や事情にぴったり合う機会が思いがけず訪れた、というタイミングのよさを含み、必ずしも深刻に困っている場合だけに使う言葉ではありません。
「渡りに船」の語源・由来
「渡りに船」は、『法華経』の薬王菩薩本事品にある「如渡得船」に由来するとされています。
この章では、法華経が人々を苦悩から離れさせ、願いを満たすことを、子どもが母を得ることや、病人が医者を得ることなどにたとえています。
その一つが、川などを渡ろうとするときに都合よく船を得るという「如渡得船」です。
読み下しでは「渡りに船を得たるが如く」などの形になり、現代では「渡りに船」と簡潔な形で使われています。
「渡りに船」の使い方
次のような型がよく使われます。
- 「〜は/が渡りに船だ」
都合のよい申し出、機会、出来事などを主語に置く形です。「友人の誘いは渡りに船だった」「追加募集が渡りに船だった」などと使います。 - 「〜にとって渡りに船だ」
誰にとって好都合なのかを明示したいときに使います。「人手不足の店にとって渡りに船だ」「部屋を探していた彼には渡りに船だった」などの形です。 - 「渡りに船の〜」
後ろに「申し出」「提案」「話」などの名詞を続けます。「渡りに船の申し出」「渡りに船の提案」などと使います。 - 「渡りに船とばかりに〜」
好都合な機会を逃さず利用する様子を表す形です。「渡りに船とばかりに話に乗る」「渡りに船とばかりに申し出を受ける」などと続けます。
「渡りに船」の例文
- 転職を考え始めた矢先に以前の同僚から声を掛けられ、その誘いは私にとって渡りに船だった。
- 大雨で帰る手段に困っていると友人が車で送ると言ってくれたので、渡りに船とばかりに厚意に甘えることにした。
- 出店する場所を探していた店に、近所の商業施設から渡りに船の共同イベントの提案が舞い込んだ。
「渡りに船」の類似表現
願ったり叶ったり(ねがったりかなったり)
自分の希望と物事がすっかり一致し、望みどおりになることをいいます。
「渡りに船」が、何かを必要としているところへ好都合な条件や機会が現れるというタイミングを表しやすいのに対し、「願ったり叶ったり」は結果や条件そのものが理想どおりであることに重点がおかれています。
地獄で仏(じごくでほとけ)
非常に困っているときや危険な状況で、思いがけない助けに出会うことをいいます。
「渡りに船」は日常的な好機や申し出にも広く使えますが、「地獄で仏」は苦境から救われる場面で使われるため、切迫感が強い表現です。
「渡りに船」の古い用例
『精選版 日本国語大辞典』では、「如渡得船」が登場する古い例として、1346年の『広本拾玉集』が挙げられています。
この時点では、現在の「渡りに船」という短い言い方ではなく、『法華経』の言い回しをそのまま受けた「如渡得船(渡りに船を得たるが如く)」という表記が使われています。
近代以降には、現在と同じ「渡りに船」の形が一般の文章でも見られます。
井伏鱒二『黒い雨』(1965~66年)には「渡りに船とはこのことではないか」とあり、思いがけず好機を得た場面を表す現代と同じ使われ方がされています。
参考文献・出典
- 新村出編『広辞苑』第七版、岩波書店、2018年。
- 米川明彦・大谷伊都子編『日本語慣用句辞典』東京堂出版、2005年、「渡りに船」項。
- 小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005~2006年、「如渡得船」項。
- 北村孝一編『小学館 ことわざを知る辞典』小学館、2018年、「渡りに船」項
