訳はない
読み方:わけはない
「訳はない」の意味
簡単である、手間がかからず容易にできるという意味です。
難しそうに見えることでも、自分の能力や条件からすれば難しくないというニュアンスがあり、「わけがない」「わけもない」も、この意味で使われることがあります。
「訳はない」の語源・由来
「訳」の「わけ」は「分け」と同語源とされ、物事を判断して区別することから、意味・内容・道理・理由などを表すようになった言葉です。
古くは「訳がない」「訳もない」などの形で、筋道が立たない、理解できないといった意味にも用いられていました。
これらの表現には、のちに「容易である」「簡単である」という意味が加わりました。
近代の文献にはすでにこの意味の実例が残っていますが、「筋道がない」から「容易だ」へどのような過程で意味が移ったのかを、一つに断定することはできません。
「訳はない」の使い方
次のような型がよく使われます。
- 「〜なら訳はない」
「〜」には、簡単にできると判断する仕事、量、条件などを入れます。「この程度なら訳はない」「一人分なら訳はない」などの形です。 - 「〜するのは/〜することは訳はない」
容易にできる行為を示します。「この問題を解くのは訳はない」「荷物を運ぶことは訳はない」などと使います。 - 「〜には/〜にとっては訳はない」
そのことを簡単にこなせる人や立場を示します。「熟練者には訳はない」「専門家にとっては訳はない」などの形です。 - 「そんなことなら訳はない/訳はありません」
頼まれたことや示された課題に対し、難しくないと答える形です。「それくらいなら訳はない」「そんなことなら訳はありません」などと使います。
「訳はない」の例文
- 経験豊富な職人にとって、この程度の修理なら訳はないでしょう。
- 地図で現在地さえ分かれば、ここから駅まで戻るのは訳はない。
- 最初は複雑そうに見えた作業も、手順を覚えてしまえば私には訳はなかった。
「訳はない」の類似表現
訳もない(わけもない)
「簡単である」「容易である」という意味では「訳はない」とほぼ同じで、多くの場面で言い換えられます。
「そんな仕事は訳もない」「彼なら訳もなくこなす」などと使われます。
造作もない(ぞうさもない)
手間や苦労がほとんどなく、簡単にできることをいいます。
「造作」は手間や面倒を指すため、「こんな計算は造作もない」のように、難しさや手数の少なさを直接表しやすい言葉です。
「訳はない」の古い用例
夏目漱石の『虞美人草』には、比叡山へ向かう場面で「あんなに見えるんだから、訳はない」という言い方があります。
「訳はない」が「難しくない、容易だ」という意味で使われた例です。
この『虞美人草』は、1907年6月から10月に『朝日新聞』へ連載されました。
「訳はない」の間違いやすい使い方・表記
「訳はない」には、「簡単だ」という慣用句とは別に「〜はずがない」「〜する道理がない」という使われ方があります。
「この程度の修理なら、彼には訳はない」なら「彼には簡単だ」という意味です。
これに対して、「彼が修理に失敗するわけはない」という言い方は「彼が失敗するはずがない」という強い否定になります。
動詞などの言葉に「わけはない」が直接続く場合には、こちらの意味になることがあります。
参考文献・出典
- 新村出編『広辞苑』第七版、岩波書店、2018年。
- 米川明彦・大谷伊都子編『日本語慣用句辞典』東京堂出版、2005年、「訳はない」項。
- 小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005~2006年、「訳が・も・は無い」項。
- 小学館『日本大百科全書(ニッポニカ)』「おもな慣用句」。
- 夏目漱石『虞美人草』、『夏目漱石全集4』ちくま文庫、筑摩書房、1988年。
