西も東も分からない
読み方:にしもひがしもわからない
「西も東も分からない」の意味
知らない土地の地理がまったく分からないこと、または、物事について知識や判断力がなく、どうすればよいか分からないことです。
「西も東も分からない」の語源・由来
西と東という方角の区別さえつかない状態を言い表した慣用句です。
土地に不案内であることを表すほか、方角の区別がつかない状態になぞらえて、物事の分別や理解がつかないことにも用いられます。
古い資料には「西も東も知らない」という形も早くから見られます。
残っている用例からは、地理についての使われ方と物事の分別についての使われ方の、どちらが先に成立したかまでは断定できません。
「西も東も分からない」の使い方
次のような型がよく使われます。
- 「〜では西も東も分からない」
「〜」には、初めて訪れた土地や不慣れな場所が入ります。「初めての町では西も東も分からない」「この辺りでは西も東も分からない」などの形です。 - 「〜のことは西も東も分からない」
知識や経験のない分野・事柄を「〜のことは」で示します。「経理のことは西も東も分からない」「新しい制度のことは西も東も分からない」などと使います。 - 「西も東も分からないまま〜」
よく分からない状態で行動を続ける形です。「西も東も分からないまま歩く」「西も東も分からないまま仕事を始める」などと続けます。 - 「西も東も分からない+人」
経験や判断力がまだ十分でない人を修飾します。「西も東も分からない新人」「西も東も分からない子供」などの形です。
「西も東も分からない」の例文
- 初めて訪れた旧市街では西も東も分からず、駅へ戻るのにも時間がかかりました。
- 配属された当初は経理のことなど西も東も分からなかったので、先輩に一から仕事を教わりました。
- まだ西も東も分からない子供に、大人と同じ判断を求めるのは無理があります。
「西も東も分からない」の類似表現
右も左も分からない(みぎもひだりもわからない)
知らない土地の地理が分からない場合にも、ある分野について知識がない場合にも使われ、意味と使われ方は「西も東も分からない」とほぼ同じです。
多くの場面で言い換えられます。
「西も東も分からない」の古い用例
1680年の俳諧『桃青門弟独吟廿歌仙』の杉風独吟には、「西も東もしらぬ子」という記述が見られます。
「分からない」ではなく「しらぬ」を使った同義形が、江戸時代前期にはすでに用いられていました。
夏目漱石の1900年10月21日の日記には、パリに到着した際の記述として「停車場を出でて見れば丸で西も東も分らず」とあります。
ここでは、見知らぬ土地で地理が分からないという意味で使われています。
佐々木邦『ぐうたら道中記』(初出1922年)には、「世間のことは西も東も分らない哲学者」という表現があります。
「世間のこと」に結びつき、地理ではなく社会についての知識や経験が乏しいことをいう使われ方です。
「西も東も分からない」の間違いやすい使い方・表記
慣用句として定着している言い回しは「西も東も」です。
「東西南北」では東が西より先に来ますが、この慣用句では「東も西も分からない」とはせず、「西も東も分からない」の順で使います。
「にし」が2拍、「ひがし」が3拍で、短い語を先に置く言いやすさやリズムが言い回しに関係するという説があります。
ただし、この説明だけでは当てはまらない例もあるため、言い回しの由来が確定しているわけではありません。
「西も東も知らない」「西も東も弁えない」も同義の形として使われます。
参考文献・出典
- 新村出編『広辞苑』第七版、岩波書店、2018年。
- 米川明彦・大谷伊都子編『日本語慣用句辞典』東京堂出版、2005年、「西も東も分からない」項。
- 小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005~2006年、「西も東も知らない」項。
- 小学館『大辞泉』「西も東も分からない」「右も左も分からない」各項。
- 林伸一「四字熟語と日本語の慣用句の語順について―「東西南北」・「前後左右」・「表裏一体」など―」『山口国文』第41号、山口大学人文学部国語国文学会、2018年。
- 二松学舎大学文学部国文学科・山口直孝「第3回 漱石が見たパリ」。
- 国立研究開発法人情報通信研究機構「Pathway to Japanese Literature」佐々木邦「ぐうたら道中記」。
