枚挙に遑がない
読み方:まいきょにいとまがない
「枚挙に遑がない」の意味
「枚挙に遑がない」とは、同じ種類のものや事例が非常に多く、一つ一つ挙げきれないという意味です。
単に数が多いというだけでなく、例、理由、問題点、長所、出来事など、「順に挙げていこうとしてもきりがない」という場合に適した表現です。
「枚挙に遑がない」の語源・由来
「枚挙」は、一つ一つ数え上げることを意味します。
日本語では14世紀ごろの文献にも記録されており、古くから使われている漢語です。
「いとま」は、ここでは「ある物事をするための時間の余裕」という意味です。
「暇」のほか「遑」とも書きます。
この二つを組み合わせた「枚挙に遑がない」は、一つ一つ挙げているだけの時間の余裕がないほど数が多いことを表す言い方です。
「枚挙に遑あらず」という古い形もあり、17世紀の資料に登場しています。
「枚挙に遑がない」の使い方
次のような型がよく使われます。
- 「〜は枚挙に遑がない」
「〜」には、数多く存在する事例や理由、問題点などが入ります。「同様の事例は枚挙に遑がない」「改善すべき点は枚挙に遑がない」などの形です。 - 「〜など、枚挙に遑がない」
いくつか具体例を示したあと、ほかにも数多くあることを表します。「誤植や数字の間違いなど、枚挙に遑がない」「遅刻や無断欠席など、枚挙に遑がない」と使います。 - 「〜を挙げれば枚挙に遑がない」
何を数え上げるのかを「を」で示します。「彼の功績を挙げれば枚挙に遑がない」「問題点を挙げれば枚挙に遑がない」などの形です。
「枚挙に遑がない」の例文
- この地域には歴史的な建造物が数多く残っており、興味深い場所は枚挙に遑がない。
- 新しい制度には手続きの複雑さや説明不足などの問題があり、改善すべき点を挙げれば枚挙に遑がない。
- 彼女がチームに残した功績は、若手の育成、大会での好成績、練習方法の改革など、枚挙に遑がない。
「枚挙に遑がない」の類似表現
数え切れない(かぞえきれない)
意味には重なる部分がありますが、「数え切れない」は人、物、回数などにも広く使える日常的な表現です。
「枚挙に遑がない」は、事例や理由、功績、問題点などを一つ一つ取り上げて並べる場面によく合い、書き言葉としても使われます。
数知れない(かずしれない)
非常に数が多いことを表す点では似ています。
「数知れない」は「数知れない人々」「数知れない苦労」のように名詞を直接修飾できます。
「枚挙に遑がない」は、「事例は枚挙に遑がない」のように述語として使う形が基本です。
「枚挙に遑がない」の古い用例
「枚挙に遑あらず」という形は、1617年の『元和本下学集』にすでに記録されています。
現在の「〜がない」に対して、古くは「〜あらず」という古典的な形が用いられていました。
1751年の談義本『万世百物語』序には、「怪談伝奇枚挙に遑なし」という用例があります。
「遑なし」という形ですが、数が多くて一つ一つ挙げきれないという現在とほぼ同じ意味です。
中村正直訳『西国立志編』(1870~1871年)には、「枚挙するに暇あらず」という形が見られます。
「枚挙」を「する」と結びつけ、「遑」ではなく「暇」と表記している点が現在の定型とは異なります。
岸田國士の「『物言う術』の序に代へて」(1949年)では、「枚挙にいとまがない」という現在と同じ言い回しが使われています。
「枚挙に遑がない」の間違いやすい使い方・表記
「遑」は「いとま」と読みます。
「枚挙に遑がない」のほか、「枚挙にいとまがない」とひらがなで書く形も使われています。
古い用例には「暇」を使った「枚挙するに暇あらず」という表記も見られます。
「枚挙」を「たくさん」という意味の語として単独で使うのではなく、本来は「一つ一つ数え上げること」を意味する言葉です。
参考文献・出典
- 新村出編『広辞苑』第七版、岩波書店、2018年。
- 米川明彦・大谷伊都子編『日本語慣用句辞典』東京堂出版、2005年、「枚挙に遑がない」項。
- 小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005~2006年、「枚挙に遑あらず」項。
- 岸田國士「『物言う術』の序に代へて」『物言う術――俳優術第一歩』世界文学社、1949年。
