風前の灯火
読み方:ふうぜんのともしび
「風前の灯火」の意味
危険が迫り、今にも滅びたり命が尽きたりしそうな危うい状態のたとえです。
人の命だけでなく、会社や組織の存続、伝統、制度など、失われる寸前にあるものにも使われ、物事のはかなさを表すこともあります。
「風前の灯火」の語源・由来
風が吹きつける場所にある灯は、いつ消えてもおかしくありません。
この姿を、人の命や世の中の物事のはかなさに重ねた表現です。
背景には、仏教文献で古くから使われてきた「風中の灯」というたとえがあります。
『大智度論』には「世間轉壞、如風中燈」とあり、移り変わって滅びていく世の中を、風の中の灯になぞらえています。
日本でも、人の一生や生命の無常を表す言葉として受け入れられました。
後には生命に限らず、組織や物事が存続の危機にある場合にも広く使われるようになっています。
「風前の灯火」の使い方
次のような型がよく使われます。
- 「〜は風前の灯火だ」
「〜」には、命、会社の存続、伝統、制度など、失われる危険にさらされているものを置きます。「会社の存続は風前の灯火だ」「伝統芸能の継承は風前の灯火だ」などの形です。 - 「〜が風前の灯火となる」
それまで続いていたものが危機的な状態に陥ったことを述べる形です。「店の経営が風前の灯火となる」「政権の存続が風前の灯火となった」などと使います。 - 「風前の灯火のような〜」
後ろの名詞を修飾し、そのものが非常に危うい状態にあることを示します。「風前の灯火のような命」「風前の灯火のような希望」などの形です。
「風前の灯火」の例文
- 長年地域に親しまれてきた商店街も、後継者不足が続き、存続は風前の灯火となっている。
- 医師たちは、風前の灯火となった患者の命を救おうと、夜を徹して治療にあたった。
- 最後の職人が引退すれば、この土地に受け継がれてきた技術は風前の灯火だ。
「風前の灯火」の類似表現
絶体絶命(ぜったいぜつめい)
逃れる方法がないほど追い詰められた状態を表します。
「風前の灯火」は、存続や生命が今にも失われそうなことを表すため、危機の中でも特に「消滅寸前」という状態に使いやすい言葉です。
虫の息(むしのいき)
息が絶えそうなほど弱っている状態を表す言葉です。
人や生き物について使うのが基本ですが、勢いを失った組織などに比喩的に使うこともあります。
「風前の灯火」は、生命だけでなく制度・文化・会社などにも自然に使えます。
「風前の灯火」の古い用例
永観の『往生講式』には、「一生是風前之燭、万事皆春夜之夢」とあります。
1079年(承暦3年)の作とされていますが、1096年(嘉保3年)の作という異説もあります。
「風前之燭」という言い回しで、人の一生のはかなさを灯火にたとえており、「灯火」ではなく「燭」が使われている点も、現在の形とは違っています。
江戸時代初期の仮名草子『尤双紙』(1632年)には、「風のまへの灯」という言い回しが見られます。
「風前」という漢語調ではなく、「風の前」と大和言葉に直した言い方が使われていました。
芥川龍之介の『侏儒の言葉』(1923~1927年)には、「風前の灯火のように覚束ない命」という表現があります。
近代には、現在と同じ「風前の灯火」という言い回しが、命の危うさを表すたとえとして使われています。
参考文献・出典
- 新村出編『広辞苑』第七版、岩波書店、2018年。
- 米川明彦・大谷伊都子編『日本語慣用句辞典』東京堂出版、2005年、「風前の灯火」項。
- 小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005~2006年、「風前の灯火」「風の前の灯火」項。
- 北村孝一編『小学館 ことわざを知る辞典』小学館、2018年、「風前の灯火」項。
- 永観『往生講式』。
- 芥川龍之介『侏儒の言葉』。
