読み方:みいらとりがみいらになる

「ミイラ取りがミイラになる」の意味

人を連れ戻したり説得したりするために出向いた人が、かえって相手側に引き込まれ、本来の役目を果たさなくなることです。

人を説得するつもりだったのに自分が説得されてしまうなど、働きかける側と働きかけられる側の立場が逆になる場合にも使います。

「ミイラ取りがミイラになる」の語源・由来

「ミイラ取り」は、もともと薬用のミイラを手に入れようとする人を指します。

江戸時代には、ミイラが高価な輸入薬と結び付けて知られていました。

そこから、ミイラを取りに砂漠へ行った人が目的を果たせず、自分まで死んでミイラになってしまうという話が広まり、それを人間関係にたとえた表現が生まれたと考えられています。

江戸中期には、すでに比喩的な言い回しとして使われていました。

「ミイラ」という言葉は、ポルトガル語の mirra(没薬)に由来するとされます。

ことわざそのものは、ヨーロッパや中東では同じ形の表現が見当たらず、日本で生まれたものとみられています。

「ミイラ取りがミイラになる」の使い方

次のような型がよく使われます。

  • 「〜も/〜までミイラ取りがミイラになる」
    人を迎えたり説得したりする役目だった人について述べる形です。「説得役までミイラ取りがミイラになった」「兄もミイラ取りがミイラになった」などと使います。
  • 「ミイラ取りがミイラになって〜」
    「なって」の後ろに、その結果起こったことを続けます。「ミイラ取りがミイラになって相手側につく」「ミイラ取りがミイラになって戻ってこない」などの形です。
  • 「ミイラ取りがミイラにならないように〜」
    相手に取り込まれないよう注意する場合に使います。「ミイラ取りがミイラにならないように距離を置く」「ミイラ取りがミイラにならないように目的を確認する」などと続けます。
  • 「まるでミイラ取りがミイラになったようだ」
    起きた出来事をこの慣用句になぞらえる形です。「まるでミイラ取りがミイラになったようだ」「これではミイラ取りがミイラになったようなものだ」などと使います。

「ミイラ取りがミイラになる」の例文

  • 遊びに夢中の弟を呼びに行った兄まで仲間に加わり、ミイラ取りがミイラになって二人とも帰ってこなかった。
  • 反対派を説得する役を任された彼は、話し合ううちに相手の主張に納得し、すっかりミイラ取りがミイラになった
  • 相手の勢いに押されてミイラ取りがミイラにならないように、交渉の目的と譲れない条件をあらかじめ決めておいた。

「ミイラ取りがミイラになる」の類似表現

木菟引きが木菟に引かれる(ずくひきがずくにひかれる)

相手をやっつけようとした側が、かえって相手の術中にはまってやられることをたとえた表現です。

「ミイラ取りがミイラになる」は、人を迎えに行った人がその場に居ついたり、説得する側が説得されたりする場合にも使えます。

「木菟引きが木菟に引かれる」は、仕掛けた側が逆にやられるという場面に向いています。

「ミイラ取りがミイラになる」の古い用例

1766年に初演された近松半二らの浄瑠璃『本朝二十四孝』には、

「どうやらかう、木乃伊取りが、木乃伊になるやうな御上使様」という用例があります。

「ミイラ」を「木乃伊」と書き、現在とほぼ同じ形で、人に働きかける立場の者が逆の状態になることをたとえています。

山東京伝の洒落本『京伝予誌』(1790年)では、吉原に居続ける息子を迎えに来た番頭が、酒を勧められて自分までその場に居ついてしまう話に「木乃伊取りがミイラになる」という表現が使われています。

「人を連れ戻しに行った者まで帰ってこなくなる」という言い回しが、江戸時代にすでに見られます。

「ミイラ取りがミイラになる」の間違いやすい使い方

単に「目的を達成できなかった」というだけでは、通常「ミイラ取りがミイラになる」とはいいません。

たとえば、説得に行った人が説得できずに帰ってきただけなら、立場は逆転していません。

説得する側が相手に説得されたり、連れ戻す側が相手と一緒に居ついたりするなど、自分まで相手側に引き込まれることが、この表現の大切なポイントです。

参考文献・出典

  • 新村出編『広辞苑』第七版、岩波書店、2018年。
  • 米川明彦・大谷伊都子編『日本語慣用句辞典』東京堂出版、2005年、「ミイラ取りがミイラになる」項。
  • 小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005~2006年、「ミイラ取がミイラになる」項。
  • 北村孝一編『小学館 ことわざを知る辞典』小学館、2018年、「ミイラ取りがミイラになる」項。
  • 小学館辞書編集部「第125回 とどのつまり」『ことばのまど』。
  • 独立行政法人日本芸術文化振興会「文楽への誘い 本朝廿四孝」。
ABOUT ME
北澤篤史
ことわざ学会理事。ことわざ・慣用句・故事成語・四字熟語・漢字熟語を対象に、語源・由来、古い用例、文献上の変遷を研究している。2025年度ことわざ研究奨励賞受賞。著書に『〈試験に出る〉マンガでわかる すごいことわざ図鑑』『〈試験に出る〉マンガでわかる おもしろい四字熟語図鑑』『マンガでわかる 漢字熟語の使い分け図鑑』(いずれも講談社)がある。