棒に振る
読み方:ぼうにふる
「棒に振る」の意味
積み重ねてきた努力や苦心の成果、大切な地位・機会などを無駄にしてしまうことです。
失うものの大きさに対する惜しい気持ちから、多くは否定的な評価を含ませて使います。
「棒に振る」の語源・由来
一説には、江戸時代の庶民の暮らしを表す「棒手振(ぼうてぶり)」から生まれた言葉とされています。
天秤棒の両端に魚や野菜などをぶら下げて売り歩く行商人のことを、「棒手振(ぼうてぶり)」と呼びました。
品物をすべて売り切ると天秤棒しか残らず、「空っぽで何もない状態になること」から転じて、地位や財産、努力の成果などを失ってしまうことの例えになったとされています。
「棒に振る」の使い方
次のような型がよく使われます。
- 「〜を棒に振る」
無駄にする対象を助詞「を」で示します。「人生を棒に振る」「昇進の機会を棒に振る」などの形です。 - 「〜で/〜によって、…を棒に振る」
原因を「で」や「によって」で示します。「失言で地位を棒に振る」「けがによって大会を棒に振る」などと使います。 - 「〜を棒に振ってまで…」
大切なものを失う覚悟で別の行動を選ぶ形です。「出世を棒に振ってまで守る」「地位を棒に振ってまで訴える」などと続けます。 - 「〜を棒に振りかねない」
望ましくない結果が起こる危険を示します。「油断で好機を棒に振りかねない」「軽率な判断で人生を棒に振りかねない」などの形です。
「棒に振る」の例文
- 取引先への不用意な一言で、彼は目前だった昇進の機会を棒に振ってしまいました。
- 痛みを隠して出場を続ければ、選手生命を棒に振りかねません。
- 彼女は安定した地位を棒に振ってまで、組織の不正を告発しました。
「棒に振る」の類似表現
水泡に帰す(すいほうにきす)
「努力が水泡に帰した」は、努力が無駄になった「結果」に焦点を当てた表現です。
「努力を棒に振る」の方は、努力を無駄にした「原因」に焦点を当てた表現になり、「努力が無駄になった」という意味は同じでも、まったくニュアンスが違います。
ふいにする(ふいにする)
「好機をふいにする」「せっかくの休みをふいにする」と、幅広い対象に使えます。
「棒に振る」は、特に長く積み上げた成果や人生・地位など、失うものの重さを際立たせたい時に適した言葉です。
「棒に振る」の古い用例
浅井了意の『浮世物語』(1665年ごろ)には、「終に家を棒にふりて」とあります。
ここでの「家を棒にふりて」は、現代語の「家を棒に振って」にあたる言い方です。
江戸初期には、家産を失う意味で使われていました。
参考文献・出典
- 新村出編『広辞苑』第七版、岩波書店、2018年。
- 米川明彦・大谷伊都子編『日本語慣用句辞典』東京堂出版、2005年、「棒に振る」項。
- 小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005~2006年、「棒に振る」項・「棒手振り」項・「水泡に帰する」項・「ふいにする」項。
- 集英社『ルーツでなるほど慣用句辞典』「棒に振る」項。
- 東京大学総合図書館「浮世物語/浅井了意作」書誌情報。
