円満具足
読み方:えんまんぐそく
「円満具足」の意味
「円満具足」とは、すべてが十分に備わり、少しも欠けているところがないことです。
人の人格や顔つき、暮らし、物事の状態などについて使われます。
「円満具足」の語源・由来
「円満具足」は、特定の故事から生まれた言葉ではなく、仏教で古くから使われてきた「円満」と「具足」が結びついた表現です。
「円満」は、仏教では功徳や願いなどが十分に満ちることをいい、「具足」は必要なものが不足なく備わることをいいます。
現在と同じ四字の並びは古い仏教文献にも見られます。
唐代に地婆訶羅が訳した『證契大乘經』には、
「惟一圓滿具足開說白淨梵行」
とあり、旧字体の「圓滿具足」が続けて使われています。
このため、「円満具足」は近代日本で四字にまとめられた造語ではありません。
ただし、一般的な四字熟語としていつ定着したのかは明確ではありません。
「円満具足」の使い方
次のような形で使われます。
- 「円満具足の〜」
後ろに「境地」「状態」「相」などを続けます。「円満具足の境地」のような形です。 - 「円満具足した〜」
後ろに人物や人格などを続けます。「円満具足した人格」のように使います。 - 「〜が円満具足する」
「功徳」「徳」などを主語にして、不足なく備わることを表す形です。仏教に関する文章でも使われます。
「円満具足」の例文
- その評伝では、彼は知識だけでなく人徳にも優れた、円満具足した人物として描かれています。
- 完成した仏像は円満具足の相好をたたえ、堂内に静かに安置されました。
- 彼にとって、家族が健康で穏やかに暮らせることこそ円満具足の生活でした。
「円満具足」の類似表現
完全無欠(かんぜんむけつ)
不足や欠点がまったくないことをいう点では、意味が非常に近い表現です。
「完全無欠」は人だけでなく、計画、制度、作品など幅広い対象について、欠点がないことを直接表せます。
福徳円満(ふくとくえんまん)
「福徳円満」は、幸福や利益、徳が欠けることなく備わっていることです。
「福徳」という内容に範囲が限られるため、物事全般について不足がないことをいう場合には、そのまま置き換えられないことがあります。
「円満具足」の古い用例
日本の密教文献として伝わる『秘蔵記』には、
「曼荼羅、謂三密圓滿具足之義也」
という句が引かれており、旧字体の「圓滿具足」が使われています。
『秘蔵記』は空海の著作として伝えられる文献で、国語資料では835年ごろの文献として扱われる例があります。
この用例は、現代の日常語ではなく、漢文体の仏教語として使われたものです。
近代日本語では、芥川龍之介の『黒衣聖母』(1920年)に
「円満具足の相好」
という用例があります。
国語資料では「円満具足」の初出実例として掲げられており、ここでは顔つきについて用いられています。
さらに壺井栄の『二十四の瞳』(1952年)では、「円満具足のかぎり」という形で、ある一家にとって十分に満ち足りた暮らしを指す文脈に使われています。
顔つきに限らず、生活の充足についても用いられていたことが分かります。
「円満具足」の間違いやすい使い方・表記
「具足」は、鎧や兜などの武具を指す場合がありますが、「円満具足」の「具足」はその意味ではありません。
ここでは「不足なく十分に備わる」という古くからの意味で使われています。
古い文献では「圓滿具足」と書かれることがあります。
「圓」「滿」はそれぞれ現在の「円」「満」に当たる旧字体であり、「円満具足」と同じ四字構成です。
参考文献・出典
- 新村出編『広辞苑』第七版、岩波書店、2018年。
- 飯間浩明編『小学館 四字熟語を知る辞典』小学館、2018年、「円満具足」項。
- 小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005~2006年、「円満具足」「円満」「具足」項。
- 丁福保編『佛學大辭典』醫學書局、1922年、「曼荼羅」「曼荼羅通三大」「輪圓具足」項。
- 高楠順次郎ほか編『大正新脩大藏經』第16巻、大正一切経刊行会、『證契大乘經』。
- 大澤聖寛『空海思想の研究』山喜房佛書林、2013年。
- 芥川龍之介『黒衣聖母』1920年。
