治外法権
読み方:ちがいほうけん
「治外法権」の意味
治外法権とは、外国にいる特定の人などについて、その国の裁判権や行政権の行使が全部または一部及ばない特別な地位・権利を指す言葉です。
現代の外交制度では、「その国の法律を守らなくてよい権利」というより、裁判権からの免除などとして理解する必要があります。
国際法上の意味から離れて、組織や場所について「通常の規則や統制が及ばない特別な領域」という意味で比喩的に使うこともあります。
「治外法権」の語源・由来
「治外法権」は、中国古典の故事から生まれた四字熟語ではなく、近代に国際法の概念を表す専門語として定着した言葉です。
明治14年(1881)刊行の『哲学字彙』には、外国語の国際法用語に対応する訳語として「治外法権(法)」が収められています。
「法」は同書で法理学に属する語であることを示す記号です。
明治前期には、西洋の政治・法律の概念を漢字語へ置き換える作業が盛んに行われており、「治外法権」もその時期に外交・法律の専門語として使われるようになりました。
ただし、この語を最初に作った人物や、現在の四字の形が初めて作られた一点を特定することはできません。
後述する日本語の文献例からは、『哲学字彙』の刊行より前にすでに実際の文章で使われていたことが分かります。
「治外法権」の使い方
次のような形で使われます。
- 「治外法権を認める」
条約や制度によって特別な権利を与えることを述べます。「外国人に治外法権を認める」などの形です。 - 「治外法権を撤廃する」
歴史や外交を扱う文章で使われます。「治外法権を撤廃する条約」などと続けます。 - 「治外法権の〜」
後ろに「撤廃」「問題」「範囲」などを置きます。「治外法権の撤廃」「治外法権の問題」などの形です。 - 「治外法権も同然だ」
通常の決まりが及ばないような組織や場所を批判的にたとえる場合に使います。
「治外法権」の例文
- 明治期の条約改正では、各国との交渉を通じて治外法権を撤廃することが大きな課題となりました。
- 一部の外国人に広い治外法権を認める制度なら、国内の裁判権との関係を慎重に考えなければなりません。
- 社長だけが社内規則の適用外になっているため、社員からは治外法権も同然だと批判されました。
「治外法権」の類似表現
領事裁判権(りょうじさいばんけん)
領事が駐在国で自国民を裁判する権限をいいます。
「治外法権」より対象が限定された制度名です。
日本史で「治外法権の撤廃」と呼ばれる条約改正では、領事裁判権の廃止が中心的な問題でした。
日本は明治27年(1894)にイギリスと日英通商航海条約を結び、同条約は明治32年(1899)7月17日に施行されました。
これによってイギリスの領事裁判権が撤廃され、他国との新条約も同じ時期に実施されました。
外交特権(がいこうとっけん)
外交官が職務を行うために認められる特別な権利や免除を広く指します。
現代の国際法では、かつて「治外法権」とまとめて説明された内容も、裁判権からの免除や公館の不可侵など、それぞれの外交特権として扱われます。
「治外法権」の古い用例
日本語で確認できる古い例として、明治11年(1878)8月7日の『東京日日新聞』に、
「日本政府は今度の条約改正に於ては治外法権の約束は先づ現行の儘に存し」
とあります。
「治外法権の約束」という形で条約改正を論じており、明治10年代の初めにはこの四字の語形が外交問題を表す語として使用されていたことが分かります。
昭和31年(1956)の三島由紀夫『金閣寺』には、
「治外法権も同じである」
という用例があります。
ここでは国際法上の制度そのものではなく、通常とは異なる特別扱いを受ける状態をたとえる表現として使われており、20世紀半ばには比喩的な用法も文学作品に現れていました。
「治外法権」の間違いやすい使い方・表記
大使館や公使館を「その国の領土になっている場所」と考えるのは正確ではありません。
外国の大使館が置かれた土地も所在国の領域であり、現代の国際法では、外国領土とみなすのではなく、公館の不可侵や外交官の裁判権からの免除などによって保護されています。
読み方は現在「ちがいほうけん」が一般的です。
古い資料では「ぢがいほうけん」という読みも記録されています。
参考文献・出典
- 新村出編『広辞苑』第七版、岩波書店、2018年。
- 飯間浩明編『小学館 四字熟語を知る辞典』小学館、2018年、「治外法権」項。
- 小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005~2006年、「治外法権」項。
- 井上哲次郎・和田垣謙三・国府寺新作・有賀長雄編『哲学字彙』東京大学三学部、1881年。
- 国立国語研究所『日本語史研究用テキストデータ集「哲学字彙」』。
- 国立公文書館「明治27年(1894)7月|日英通商航海条約が調印される」。
- 外務省外交史料館「日英通商航海条約 陸奥宗光と条約改正」。
- 外務省『外交青書 2003』「国際法あれこれ」。
