一所懸命
読み方:いっしょけんめい
「一所懸命」の意味
「一所懸命」は、命がけで物事に取り組み、力の限り努めることをいう四字熟語で、現代では「一生懸命」とほぼ同じ意味で使われます。
「一所懸命」の語源・由来
「一所懸命」の成立背景には、中世の武士と所領の関係があります。
武士にとって所領は生活を支える重要な基盤であり、「一所懸命」は、その大切な所領に命をかけることや、その所領自体を指しました。
「一所懸命の地」「一所懸命の領地」といった形でも用いられています。
近世になると、所領を指す意味が薄れ、「命がけ」「必死」という意味が前面に出るようになります。
それに伴い、「一所」が音の近い「一生」に置き換わった「一生懸命」も現れました。
「一生懸命」の文献上の用例は、1734年の浄瑠璃『応神天皇八白旗』にも見られます。
「一所懸命」の使い方
次のような形で使われます。
- 「一所懸命に〜」
後ろに「働く」「取り組む」「走る」「考える」などの動作を続けます。「一所懸命に課題に取り組む」などの形です。 - 「一所懸命な〜」
後ろには「姿」「態度」「様子」などを続けます。「一所懸命な姿」のように使います。 - 「一所懸命さ」
努力している程度や様子を一つの性質として述べるときに使います。「一所懸命さが伝わる」などの形です。
「一所懸命」の例文
- 選手たちは試合終了の笛が鳴るまで、一所懸命にボールを追い続けました。
- 苦手な作業にも黙々と向き合う彼の一所懸命な姿を、先輩たちは高く評価していました。
- 結果は届かなかったものの、最後まであきらめなかった彼女の一所懸命さは十分に伝わりました。
「一所懸命」の類似表現
一生懸命(いっしょうけんめい)
現代の「努力する」「必死に取り組む」という場面では、意味はほぼ同じで、多くの場合に言い換えられます。
「一生懸命」のほうが現在の一般的な表記として広く用いられています。
粉骨砕身(ふんこつさいしん)
力の限り努力することを表しますが、「粉骨砕身する」という形を取りやすく、仕事や任務のために身を尽くす決意を述べるような、改まった場面にも適した表現です。
「一所懸命」の古い用例
鎌倉時代初期に成立した説話集『古事談』には、
「彼は只一所懸命之由聞食之」
とあります。
現在と同じ「一所懸命」の四字がすでに使われており、所領をめぐる争いを扱った箇所で、生活の頼みとなる重要な所領との結びつきが明確な用例です。
1660年刊の仮名草子『智恵鑑』には、
「一所懸命の大事出来けるにより」
という用例があります。
ここでは特定の所領ではなく、生死にもかかわるような重大な事態を指しており、近世には意味の範囲が広がっていたことが分かります。
1887年の文部省『尋常小学読本』には、
「狐は、一所懸命に走りて」
とあります。
「一所懸命に」の後ろへ動作を続ける形で、現代の「必死に」「力いっぱい」に近い使い方がすでに見られます。
「一所懸命」の間違いやすい使い方・表記
「一所懸命」は「いっしょけんめい」と読みます。
「いっしょうけんめい」と読む場合の表記は「一生懸命」です。
「一所懸命」は「一生懸命」の誤記ではありません。
ただし、現代の学校教育や一般的な文章では「一生懸命」が多く採用されているため、通常の努力を表す場合には「一生懸命」を選ぶことも多くなっています。
参考文献・出典
- 新村出編『広辞苑』第七版、岩波書店、2018年。
- 飯間浩明編『小学館 四字熟語を知る辞典』小学館、2018年、「一所懸命」項。
- 小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005~2006年、「一所懸命」項。
- 国史研究会編『国史叢書 古事談・続古事談・江談抄』国史研究会、1914年。
- 教育出版株式会社編集局「言葉のてびき Q5『一所懸命』か『一生懸命』か」。
