他人の誤った言行や失敗であっても、自分を磨くための参考にできるというたとえ。
よその山から出た粗い石でも、玉を磨く砥石として役立つことができる、という比喩から生まれた表現です。転じて、他人の失敗や好ましくない言動も、自分の行動や考え方を見直す材料にできる、という意味で使います。
単に『他人の優れた行いを手本にする』という意味だけで使うのは、本来の意味から外れます。平成16年度の文化庁『国語に関する世論調査』でも、この意味の取り違えが調査されています。
「他山の石」の使い方
自分とは直接関係のない人や組織の失敗、問題事例、好ましくない言動を見て、自分たちの行動を改善するときに使います。『他社の事故を他山の石とする』『先輩の失敗を他山の石として準備を見直す』のように、他者の経験から自分を省みる文脈が中心です。
「他山の石」の例文
他社の情報管理事故を他山の石として、自社の確認手順を見直した。
先輩の失敗談を他山の石とし、同じミスを繰り返さないよう準備した。
過去の災害対応の課題を他山の石として、地域の避難計画を改善する。
「他山の石」を本当に理解できたか確かめよう
例文・誤用・意味を順番に確認します。このチェックでは、まず「他山の石」そのものを理解できたかに集中します。
他社の情報管理事故を他山の石として、自社の確認手順を見直した。
自分とは直接関係のない人や組織の失敗、問題事例、好ましくない言動を見て、自分たちの行動を改善するときに使います。『他社の事故を他山の石とする』『先輩の失敗を他山の石として準備を見直す』のように、他者の経験から自分を省みる文脈が中心です。
『素晴らしい人を見習う』『優れた成功例を手本にする』という意味だけで使うと、本来の『他人の誤りや欠点からも学ぶ』という含意が抜けやすくなります。
「他山の石」の意味を、一文で説明してみましょう。
他人や他組織の失敗・問題点を、自分の改善材料として学ぶことを表す。単に優れた成功例を見習う意味だけに狭めない。『反面教師』や『人の振り見て我が振り直せ』と近いが、他者の事例を自分の修養・改善に役立てる点を押さえる。
使い方・誤用・意味を確認できました。迷ったところがあれば、すぐ上の解説を読み返してみましょう。
「他山の石」の由来・背景
中国古典『詩経』小雅・鶴鳴の『他山之石、可以攻玉』に由来します。よその山の粗い石でも玉を磨くのに使えることから、他人の誤りや好ましくない言行も自分を磨く助けにできる、という意味へ転じました。
特定の人物の逸話から生まれた表現ではなく、『詩経』の句を典拠とする故事成語として扱います。現代では『離れた事例から学ぶ』という広い使い方も見られますが、単なる『良い手本』との混同には注意が必要です。
中国古典『詩経』小雅・鶴鳴の『他山之石、可以攻玉』に由来します。よその山の粗い石でも玉を磨くのに使えることから、他人の誤りや好ましくない言行も自分を磨く助けにできる、という意味へ転じました。
特定の人物の逸話から生まれた表現ではなく、『詩経』の句を典拠とする故事成語として扱います。現代では『離れた事例から学ぶ』という広い使い方も見られますが、単なる『良い手本』との混同には注意が必要です。
中国古典『詩経』所収。作品群の成立を単一年に断定せず、出典句として確認する。
古い用例と用法の広がり
『教育勅語の淵源』では、他の思想や学問を自国を磨くための『他山の石』として用いる表現が確認できる。出典句の修養的比喩が、外部の知識を学びに転換する一般的比喩として用いられている。
原資料・書誌を見る ↗資料の該当箇所を詳しく見る
NDL PID 759265・コマ14(ほか20・24・30にも関連用例)
『他山の石 : 戦後の露西亜』では、外国の戦後事情を日本が学ぶべき材料として『他山の石』の語を用いる。『自分と直接関係のない外部事例から学ぶ』という現代的な用法につながる資料。
原資料・書誌を見る ↗資料の該当箇所を詳しく見る
NDL PID 951213・コマ329
『聖戦閑話』では、『詩経』小雅の句を引き、粗い石でも玉を磨くのに役立つように、不善の人も善人の徳器を成す具となると説明する。続けて、生活環境の一切を『他山の石』として自己の学徳を磨く資料にする用法を示す。
原資料・書誌を見る ↗資料の該当箇所を詳しく見る
NDL PID 1099095・コマ26-27
表記・言い回しはどう変わってきた?
確認できる別表記・異形:他山の石、以て玉を攻むべし 他山の石以て玉を攻むべし
『他山の石』は『たざんのいし』。出典句は『他山の石、以て玉を攻むべし』と読み下されます。
歴史の中で意味・使われ方はどう変わった?
『詩経』の句を典拠とする表現が、日本語では『他山の石』『他山の石、以て玉を攻むべし』として定着しました。現在は、他人の誤りだけでなく、自分と直接関係のない出来事や事例から学ぶ、という文脈でも用いられます。
現代では『他山の石とする』『他山の石として学ぶ』の形がよく使われます。一方、『他人の良い言行を手本にする』という意味との混同も見られるため、記事では本来の意味と現在の実際の使われ方を分けて扱います。
確認状況を明示し、未確認事項を確定情報のように扱わない方針です。
「他山の石」の用例を、国立国会図書館の資料から探す
見出し語や異形をそのまま検索語にして、OCR全文資料の用例候補と年代別の出現傾向を調べられます。
OCR全文検索の結果は用例候補です。引用・年代・初出の判断では、資料画像と書誌をあわせて確認してください。Ngramのグラフは出版年代ごとの出現傾向を見るためのもので、成立年代そのものを示すものではありません。
「他山の石」に関する研究・資料
このことわざを直接扱う研究
1971年の地震研究では、サンフェルナンド地震を日本の震災対策にとって『他山の石として、学ぶべきことが実に多い』事例と位置づけている。外部の災害事例から自国の防災を改善する用法を示す。
J-STAGE抄録1988年の安全工学論文では、米国のタンク漏えい事故を日本でも『他山の石』として活かしたいと明記している。外部事故を自組織の安全改善に生かす現代的用法を示す。
J-STAGE抄録2014年の日本人間工学会研究では、『他山の石』置換え支援ツールそのものを研究対象としている。安全情報を自分の職場へ置き換えて学ぶ実務的な『他山の石』概念が研究されていることを示す。
J-STAGE掲載情報・要旨『ことわざを知る辞典』では、他人の誤った言行を自分の修養に役立てる伝統的な意味を示し、現在は直接関係のない者や遠く離れた事例から学ぶ意味にも用いられることを説明している。
北村孝一 編『ことわざを知る辞典』1988年の安全工学論文では、米国のタンク漏えい事故を日本でも『他山の石』として活かしたいと明記している。外部事故を自組織の安全改善に生かす現代的用法を示す。
河合平八『米国アッシュランド石油のタンク漏えい事故』1971年の地震研究では、サンフェルナンド地震を日本の震災対策にとって『他山の石として、学ぶべきことが実に多い』事例と位置づけている。外部の災害事例から自国の防災を改善する用法を示す。
諏訪彰『サンフェルナンド地震について』『聖戦閑話』では、『詩経』小雅の句を引き、粗い石でも玉を磨くのに役立つように、不善の人も善人の徳器を成す具となると説明する。続けて、生活環境の一切を『他山の石』として自己の学徳を磨く資料にする用法を示す。
塚本哲三『聖戦閑話』|1938年『他山の石 : 戦後の露西亜』では、外国の戦後事情を日本が学ぶべき材料として『他山の石』の語を用いる。『自分と直接関係のない外部事例から学ぶ』という現代的な用法につながる資料。
松本雋『他山の石 : 戦後の露西亜』|1913年『教育勅語の淵源』では、他の思想や学問を自国を磨くための『他山の石』として用いる表現が確認できる。出典句の修養的比喩が、外部の知識を学びに転換する一般的比喩として用いられている。
雲照『教育勅語の淵源』|1901年このことわざに関する研究文献・研究者解説
このことわざの意味・用法・歴史・比較研究などに直接関係する研究論文・専門書・研究者本人の公開解説を掲載しています。本文転載ではなく、書誌情報と独自要約を中心に整理しています。
河合平八『米国アッシュランド石油のタンク漏えい事故』
関連確認:研究文献として接続
米国のタンク事故を日本でも『他山の石』として活かしたいとする1988年の安全工学論文。
諏訪彰『サンフェルナンド地震について』
関連確認:研究文献として接続
海外の大地震を日本の震災対策にとって『他山の石として学ぶべき』事例と位置づける1971年の地震研究。
今泉崇ほか『「他山の石」置換え支援ツールの効果に関する研究』
関連確認:研究文献として接続
JR東日本の安全分野で、他箇所の事象を自分の職場に置き換えて学ぶ『他山の石』支援ツールを研究対象とした日本人間工学会の研究。
このことわざに関係する研究者
この記事で実際に参照した研究文献・資料を起点に、関係する研究者だけを表示しています。
北村孝一
ことわざ研究家
- 北村孝一 編『ことわざを知る辞典』
「最古」と断定せず、現時点で確認できる古い資料・用例として積み上げています。資料間で作者や由来の伝承が異なる場合は、複数説を保持して比較します。
