読み方:おいてきぼりをくう

「置いてきぼりを食う」の意味

仲間や周囲の人から取り残され、置き去りにされることを意味する慣用句です。

実際その場に残される場合だけでなく、周囲の進歩や変化についていけず、自分や特定の人・分野だけが遅れる場合にも使われます。

「食う」には、好ましくない行為や扱いを受けるという意味があり、「置いてきぼりを食う」にも、望まない形で取り残されたという含みがあります。

「置いてきぼりを食う」の語源・由来

「置いてきぼり」は、「置いてけぼり」の異形です。

「置いてけぼり」は、江戸の本所七不思議の一つ「置いてけ堀」に由来するとされています。

「置いてけ堀」には、堀で釣りをした人が帰ろうとすると、どこからともなく「置いてけ、置いてけ」という声が聞こえ、釣った魚がなくなってしまうという伝承があります。

本所七不思議の中でも古くから伝わる話で、舞台とされる堀には複数の説があります。

そこから、人を後に残して立ち去ることを「置いてけぼり」といい、現在では「置いてきぼり」という言い方も広く使われるようになりました。

「食う」は、ここでは「好ましくない扱いを受ける」という意味で使われています。

「置いてきぼりを食う」の使い方

次のような型がよく使われます。

  • 「〜に置いてきぼりを食う」
    「〜に」には、自分を残して先へ行った人や集団などが入ります。「仲間に置いてきぼりを食う」「みんなに置いてきぼりを食う」などと使います。
  • 「〜で置いてきぼりを食う」
    「〜で」には、取り残された場所や場面が入ります。「旅先で置いてきぼりを食う」「駅で置いてきぼりを食う」などの形です。
  • 「〜だけが置いてきぼりを食う」
    周囲が先へ進む中で、特定の人や分野だけが遅れる場合に使えます。「自分だけが置いてきぼりを食う」「地方だけが置いてきぼりを食う」などと使います。
  • 「〜から置いてきぼりを食う」
    「世の中」「時代」などを前に置き、変化や進歩から取り残されることを表せます。「世の中から置いてきぼりを食う」「時代から置いてきぼりを食う」などの形です。実際に「世の中から置いてきぼりを食う」という用法も見られます。

「置いてきぼりを食う」の例文

  • 友人たちが先に電車に乗ってしまい、私はホームで置いてきぼりを食った
  • 新しい技術への対応を怠れば、競争相手に置いてきぼりを食うことになりかねない。
  • 大都市の整備ばかりが進み、地方だけが置いてきぼりを食っていると感じる住民もいた。

「置いてきぼりを食う」の類似表現

取り残される(とりのこされる)

人がその場に残される場合にも、周囲の進歩についていけない場合にも使えるため、「置いてきぼりを食う」と使い方が広く重なります。

「取り残される」は比較的幅広い場面で使える一般的な表現です。

「置いてきぼりを食う」は、周囲に先を越されてしまったという不本意な感じがより出やすい言い方です。

置き去りにされる(おきざりにされる)

その場に残されたまま、ほかの人が立ち去る場合には、ほぼ同じ意味で使えます。

「置き去りにされる」は、人だけでなく「安全性が置き去りにされる」のように、物事が顧みられない場合にも使われます。

「置いてきぼりを食う」は、「周囲だけが先へ進み、自分たちは取り残される」という場面にもよく合います。

「置いてきぼりを食う」の古い用例

夏目漱石の小説『坑夫』(1908年)には、「早くしないと又置いてきぼりを食ふ恐れがある」とあります。

現在と同じ「置いてきぼりを食う」という形が、明治末期にはすでに使われていました。

「置いてけぼり」という言葉そのものはさらに古く、1787年の黄表紙『亀山人家妖』には、「己を置いてけぼりにし居ったが」という表現が使われています。

この時点では「置いてけぼりにする」という形で、人を残して立ち去る意味に使われています。

「置いてきぼりを食う」の間違いやすい使い方・表記

「置いてきぼり」と「置いてけぼり」は、どちらも使われる言い回しです。

「置いてきぼりを食う」だけでなく、「置いてけぼりを食う」ともいいます。

由来となった本所七不思議の名称には「置いてけ堀」という形が使われますが、慣用的に人を取り残す意味では「置いてけぼり」「置いてきぼり」と書くのが一般的です。

参考文献・出典

  • 新村出編『広辞苑』第七版、岩波書店、2018年。
  • 米川明彦・大谷伊都子編『日本語慣用句辞典』東京堂出版、2005年、「置いてきぼりを食う」項。
  • 小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005~2006年。
  • 墨田区「本所七不思議について知りたい」。
ABOUT ME
北澤篤史
ことわざ学会理事。ことわざ・慣用句・故事成語・四字熟語・漢字熟語を対象に、語源・由来、古い用例、文献上の変遷を研究している。2025年度ことわざ研究奨励賞受賞。著書に『〈試験に出る〉マンガでわかる すごいことわざ図鑑』『〈試験に出る〉マンガでわかる おもしろい四字熟語図鑑』『マンガでわかる 漢字熟語の使い分け図鑑』(いずれも講談社)がある。