帰らぬ人となる
読み方:かえらぬひととなる
「帰らぬ人となる」の意味
人が亡くなることを意味する慣用句です。
死を直接「死ぬ」と言わずに伝える表現で、やや改まった文章や、人の死を悼む場面などで使われます。
「帰らぬ人」自体にも「死んだ人」という意味があります。
「帰らぬ人となる」の語源・由来
「帰らぬ」は、「帰る」に打ち消しの「ぬ」が付いた形で、「帰らない」という意味です。
「帰らぬ人」は、もともと「二度と帰ってこない人」という意味から、亡くなった人を指すようになった古い言い方です。
「帰らぬ人となる」は、この「帰らぬ人」に「となる」を続けた形で、二度と戻ってこない人になることから、死ぬことを遠回しに表します。
「帰らぬ人となる」の使い方
次のような型がよく使われます。
- 「〜が帰らぬ人となる」
「〜が」には、亡くなった人を入れます。「祖父が帰らぬ人となった」「恩師が帰らぬ人となった」などと使います。 - 「〜で/〜により帰らぬ人となる」
死につながった出来事や原因を前に置く形です。「事故で帰らぬ人となった」「病により帰らぬ人となった」などと使います。 - 「〜の末、帰らぬ人となる」
それまでの経過を述べてから死を伝える形です。「長い闘病の末、帰らぬ人となった」「懸命な治療の末、帰らぬ人となった」などと続けます。 - 「そのまま帰らぬ人となる」
ある出来事の後、再び戻ることなく亡くなったことを述べる形です。「意識を失い、そのまま帰らぬ人となった」などと使います。
「帰らぬ人となる」の例文
- 救助隊による懸命な捜索が続けられたが、遭難した登山者は帰らぬ人となった。
- 長く病気と闘っていた祖父は、家族に見守られながら帰らぬ人となった。
- 地域の発展に力を尽くした彼も、志半ばで帰らぬ人となった。
「帰らぬ人となる」の類似表現
不帰の客となる(ふきのきゃくとなる)
「不帰の客となる」も、死ぬことを遠回しに表す言い方です。
「不帰」は帰らないことを意味し、「二度と帰らぬ人となる」という意味で使われます。
意味はよく似ていますが、「不帰の客となる」のほうが文語的で古風な響きがあります。
世を去る(よをさる)
「世を去る」も、死ぬことを直接言わずに表す言い方です。
「帰らぬ人となる」が「二度と帰ってこない人」という言い回しを使うのに対し、「世を去る」は「この世から去る」という形で死を表します。
「帰らぬ人となる」の古い用例
「帰らぬ人となる」そのものではありませんが、その中心となる「帰らぬ人」は、平安時代の『土佐日記』にすでに見られます。
紀貫之の『土佐日記』(935年頃成立)の承平4年(934)12月27日の条には、土佐で亡くなった娘を思う場面で、「都へとおもふもものゝかなしきはかへらぬ人のあればなりけり」という歌があります。
都へ帰ることになっても、もう帰ることのできない亡き人がいるため悲しい、という内容です。
「かへらぬ人」が、現在と同じく亡くなった人を指して使われています。
参考文献・出典
- 新村出編『広辞苑』第七版、岩波書店、2018年。
- 米川明彦・大谷伊都子編『日本語慣用句辞典』東京堂出版、2005年、「帰らぬ人となる」項。
- 小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005~2006年、「帰ぬ人」項。
- 紀貫之『土佐日記』、青空文庫。
