読み方:はらのむしがおさまらない

「腹の虫が治まらない」の意味

腹が立って、怒りや不満をどうしても抑えられないことです。

納得できない扱いを受けたときなどの、強い腹立ちを表します。

「腹の虫が治まらない」の語源・由来

「虫」には古く、人の体内にいて、身体の状態や感情に影響を与えると考えられていたもの、という意味がありました。

「虫の居所が悪い」「虫が好かない」などにも、この「虫」の考え方が残っています。

「腹の虫が治まらない」は、腹の中にいると考えられた「虫」が静まらないという発想から生まれた表現です。

「腹の虫が治まらない」の使い方

次のような型がよく使われます。

  • 「〜ても腹の虫が治まらない」
    謝罪や説明などがあっても、まだ怒りが消えないことを表す形です。「謝られても腹の虫が治まらない」「事情を聞いても腹の虫が治まらない」などと使います。
  • 「〜ないと腹の虫が治まらない」
    怒りを静めるために、何かをしなければ気が済まないという形です。「一言言わないと腹の虫が治まらない」「きちんと謝ってもらわないと腹の虫が治まらない」などと使います。
  • 「腹の虫が治まらず〜」
    怒りが残ったまま、次の行動に移ったことを表せます。「腹の虫が治まらず抗議した」「腹の虫が治まらず言い返した」などの形です。

「腹の虫が治まらない」の例文

  • 身に覚えのないことで一方的に責められ、一晩たっても腹の虫が治まらなかった
  • 審判から説明を受けたものの、あの判定にはどうしても腹の虫が治まらない
  • 大切にしていた模型を弟に壊され、弁償してもらわないことには腹の虫が治まらない

「腹の虫が治まらない」の類似表現

腹に据えかねる(はらにすえかねる)

腹立たしいことを、これ以上我慢しておけない場合に使います。

「相手の態度が腹に据えかねる」「無礼を腹に据えかねて抗議する」など、怒りの原因となった言動を受ける形でも使われます。

堪忍袋の緒が切れる(かんにんぶくろのおがきれる)

我慢を重ねた末に、ついに耐えられなくなることを表します。

怒りが限界に達した瞬間を表しやすい点で、「腹の虫が治まらない」と使い分けられます。

「腹の虫が治まらない」の古い用例

為永春水の人情本『春の若草』には、「腹の虫が承知為ないヨ」という言い回しが使われています。

同書は天保年間の作品で、『精選版 日本国語大辞典』では1830~1844年の記述として挙げられています。

現在の「治まらない」ではなく「承知しない」という形ですが、腹立ちを我慢できないことを表しており、江戸時代後期には「腹の虫」を怒りや不満と結びつける言い回しが使われていました。

「腹の虫が治まらない」の間違いやすい使い方・表記

「腹の虫が治まらない」の「おさまらない」は、「納まらない」と書く形もあります。

辞書には「腹の虫が治まらない」「腹の虫が納まらない」の両方の表記が見られ、ひらがなで「腹の虫がおさまらない」と書くこともできます。

参考文献・出典

  • 新村出編『広辞苑』第七版、岩波書店、2018年。
  • 米川明彦・大谷伊都子編『日本語慣用句辞典』東京堂出版、2005年、「腹の虫が治まらない」項。
  • 小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005~2006年、「腹の虫が治まらない」項。
ABOUT ME
北澤篤史
ことわざ学会理事。ことわざ・慣用句・故事成語・四字熟語・漢字熟語を対象に、語源・由来、古い用例、文献上の変遷を研究している。2025年度ことわざ研究奨励賞受賞。著書に『〈試験に出る〉マンガでわかる すごいことわざ図鑑』『〈試験に出る〉マンガでわかる おもしろい四字熟語図鑑』『マンガでわかる 漢字熟語の使い分け図鑑』(いずれも講談社)がある。