読み方:うきみをやつす

「憂き身をやつす」の意味

身がやせるほど一つのことに熱中し、一生懸命に打ち込むことを意味します。

恋愛や芸事などに夢中になる場合のほか、あまり価値のないことや本業ではないことにのめり込むという、やや批判的な意味でも使われます。

「憂き身をやつす」の使い方

次のような型がよく使われます。

  • 「〜に憂き身をやつす」
    「〜に」には、熱中している対象が入ります。「恋に憂き身をやつす」「芸事に憂き身をやつす」などの形です。
  • 「〜に憂き身をやつしている」
    あることに夢中になっている状態が続いている場合に使います。「趣味に憂き身をやつしている」「研究に憂き身をやつしている」などと使えます。
  • 「〜に憂き身をやつした〜」
    過去に何かへ熱中していた人や時期などを表す形です。「賭け事に憂き身をやつした男」「芝居に憂き身をやつした青春時代」などと続けます。

「憂き身をやつす」の例文

  • 若いころの祖父は芝居に憂き身をやつし、給料の多くを観劇につぎ込んでいた。
  • 彼は今、古いレコードの収集に憂き身をやつしている
  • 学生時代、彼女は古典籍の研究に憂き身をやつし、休日にも図書館へ通い続けた。

「憂き身をやつす」の類似表現

うつつを抜かす(うつつをぬかす)

あることに心を奪われ、ほかのことをおろそかにする場合に使います。

「遊びにうつつを抜かす」「恋にうつつを抜かす」のように使われ、非難する気持ちが比較的強い表現です。

「憂き身をやつす」にある、身がやせるほど打ち込むという含みはありません。

身を入れる(みをいれる)

仕事や勉強などに真剣に取り組むことをいいます。

「勉強に身を入れる」「仕事に身を入れる」のように使い、基本的には肯定的な表現です。

夢中になりすぎることや、無益なことへののめり込みを表す言葉ではありません。

「憂き身をやつす」に含まれる言葉の意味

「憂き身」は、思うようにならないことが多く、つらさや悲しみを抱えた身の上を意味する古い言葉です。

「やつす(窶す)」にはいくつかの意味がありますが、「憂き身をやつす」では、そのことに打ち込んで、やせるほど思い悩む、心身を砕くという意味が関係しています。

「やつす」には古くからこの使われ方があり、16世紀初めごろの歌集にも「恋に身をやつす」という形が見られます。

「憂き身をやつす」の古い用例

浄瑠璃『丹波与作待夜の小室節』(1707年ごろ)には、「うき身やつすは親の為」という表現が使われています。

親のために苦労をいとわず尽くす文脈で使われており、この時代には、身をすり減らすほど一生懸命に取り組む意味で用いられています。

談義本『世間万病回春』(1771年)には、「詩文章にうき身をやつして」とあります。

詩や文章に夢中になることを指しており、18世紀には、特定の物事への熱中を表す使い方が見られます。

人情本『春色籬の梅』(1838~1840年ごろ)では、「浮身」という表記で、恋に深くのめり込む意味として使われています。

「憂身」だけでなく「浮身」と書く例が、江戸時代には見られます。

「憂き身をやつす」の間違いやすい使い方・表記

「うきみ」は「憂き身」のほか、「浮き身」「浮身」と書かれることがあります。

特に、無益なことに夢中になるという意味では「浮き身」と書くことが多いとされています。

参考文献・出典

  • 新村出編『広辞苑』第七版、岩波書店、2018年。
  • 米川明彦・大谷伊都子編『日本語慣用句辞典』東京堂出版、2005年、「憂き身をやつす」項。
  • 小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005~2006年、「憂身を窶す」「憂身」「窶す」項。
ABOUT ME
北澤篤史
ことわざ学会理事。ことわざ・慣用句・故事成語・四字熟語・漢字熟語を対象に、語源・由来、古い用例、文献上の変遷を研究している。2025年度ことわざ研究奨励賞受賞。著書に『〈試験に出る〉マンガでわかる すごいことわざ図鑑』『〈試験に出る〉マンガでわかる おもしろい四字熟語図鑑』『マンガでわかる 漢字熟語の使い分け図鑑』(いずれも講談社)がある。